2020年初頭からインドネシアを襲った新型コロナウイルスはジョコ・ウィドド政権の当初の楽観的対応の影響もあり瞬く間に感染拡大が全土に広がり、深刻な影響から経済活動の停滞が顕著になり、進出している日系企業もその余波を受けて難しい経営、操業に直面した。
2020年末から2021年にかけての年末年始休暇や5月のイスラム教の断食明けの休暇である「レバラン」などの長期休暇では政府が国民に帰省や移動の自粛を懸命に呼びかけたのにも関わらず、約2000万人が帰省や移動を行ったとされる。その後、デルタ株の感染拡大も相まって、政府の懸念が的中して感染が爆発的に拡大し、7,8月には一日の感染者数が5万人に達するなど厳しい状況に追い込まれた。
営業自粛や操業停止、操業時間短縮、自宅待機やリモートワークなどで失業や収入減から生活困難者が急増する中、日系企業も、政府による操業制限の強化や従業員間での感染拡大によるラインの一時停止、駐在員やその家族の一時帰国、本帰国など、これまでの想定を超える対応を取らざるを得ない事態に追い込まれた。
しかしその後感染者数、感染死者数は減少傾向を続け、年末には1日の感染者数が数十人前後までダウンした。 長い不況に襲われていた製造業、運輸交通業、観光業などからの強い要望を背景に政府は行動規制や人流制限を次々と緩和。ジャカルタ中心部のスディルマン、タムリン通りにはコロナ禍以前のような朝夕のラッシュが戻り、ショッピングモールや飲食店も通常営業に近い形でビジネスを再開して、満を持した客により賑わいを取り戻しつつある。
日系企業も8月末、9月上旬以降、一時帰国していた駐在員の再入国が本格化し、少しずつだがかつての日常を取り戻そうとしている。
こうしたコロナ禍において、日本貿易振興機構(JETRO)ジャカルタ事務所では、新型コロナウイルス等に関わる緊急アンケート(2020年6月・12月、2021年6月実施)、一時帰国に関するアンケート(2021年7月実施)、2021年海外進出日系企業実態調査(2021年8月~9月実施)等の調査を実施している。
そのアンケート結果や日々のヒアリング結果、マクロ経済情報をもとに、現在日系企業が置かれている状況そして2022年にかけての動向、見通しを読み解く。
コロナ感染動向と消費者行動、日系企業
インドネシアのGDP成長率は、2020年第2四半期に底を打ち、そこから徐々に回復、2021年第1四半期まではマイナス成長(マイナス0.7%)だったが、第2四半期は7.1%、第3四半期は3.5%とプラスに転じた。第3四半期は新型コロナウイルスの感染拡大と活動制限強化で回復ペースが鈍化した。
一方で、9月以降の制限緩和に伴い、第4四半期は民間消費の拡大が期待される。GOOGLE社が発表しているCOMMUNITY MOBILITY REPORTによれば、小売店及び娯楽施設への移動が高まってきている。
一方で懸念事項もある。オミクロン株などの変異株による感染状況悪化だ。ASEANではシンガポールに次いで2番目にワクチン接種を開始したインドネシアだが、人口の多さも相まって、人口比では1回目接種は51%、2回目接種は35%にとどまっている。政府は6歳から11歳の子どもを対象にしたワクチン接種を開始するなど、2021年以内に人口比40%の国民への接種完了を目指す。加えて、2022年にはブースター接種を開始するとの報道もある。ワクチン接種が2022年にどこまで進展するか注目される。
投資は中国に抜かれるも多角化が進む
日本からの投資額は2016年以降減少しており、対照的に中国からの投資が2020年から日本の投資を上回り、2021年の第1~第3四半期ではシンガポール、中国、香港が日本を上回る状況となっている。
日本からの投資は2010年代前半に拡大した輸送機器分野への投資が主流だが、インドネシア国内の自動車産業の伸び悩みもあり一服しているといえる。他方、投資金額は輸送機器分野に比べて少ないものの、化学、医薬、ゴム、プラスチックさらにインフラ、都市開発、DX関連、消費財、サービスなど投資分野の多角化が徐々に進展している。政府は、雇用創出法の整備などにより、外国投資・質の高い投資を更に呼び込もうとしている。投資省/BKPMの2022年の年間目標(外国企業による投資実現額)が、900兆ルピア(2021年目標)から1,200兆ルピアに引き上げられるとの情報もある。
景況感、事業拡大方針意欲などが回復
2021年8月25日~9月24日に実施したジェトロの海外進出日系企業実態調査の結果では、在インドネシア日系企業の景況感を示すDI値は、景気回復の目安である50を割り込むも、42.5ポイントとなり、東南アジアでトップとなった。また、今後1、2年に事業を拡大するという日系企業が45.3%となり、2020年の37.4%を上回る結果となった。
また、インドネシアにおける投資環境上のメリットとリスクについて、回答企業がメリットとして挙げたのは、上位から「市場規模、成長性81.7%」「人件費の安さ35.5%」「従業員の使い易さ(一般ワーカー、スタッフ、事務員など)28.8%」「取引先(納入先)企業の集積26.9%」「安定した政治社会情勢(12.8%)」となっている。これに対してリスクは上位から「人件費高騰72.8%」「税制、各種手続きの煩雑さ65.1%」「地方政府の不透明な政策運営62.1%」「法制度の未整備、不透明な運用53.4%」「不安定な政治社会情勢51.9%」となっている。
G20をインドネシアで開催。首都移転、電気自動車政策にも注目が集まる。
2021年に引き続き、雇用創出法の細則がきちんと運用されるかについても注意が必要だ。12月には違憲判決が出され政府は2年以内の法整備を求められている。違憲判決と最低賃金発表のタイミングが重なったこともあり、労働者のデモが激化し、日系企業の操業にも少なからず影響したとみられる。また、最近では、雇用創出法以外の繊維、鉄鋼、中古資本財等の輸入規制の変更が相次いでいる。こういった雇用創出法以外の規制・政策変化にも注意が必要だ。
政府が、2025年に40万台、2030年に60万台、2035年に100万台のバッテリーEVを生産するという目標を掲げ、推進する電気自動車・EV産業にも関心が集まる。日系企業以外の動きでは、韓国の現代自動車が2022年中に生産を開始する予定となっている。インドネシア市場で電気自動車がどこまで受け入れられ根付くか予測が難しい面もあり、今後の発展が注目される。
また、新型コロナウイルスの影響により棚上げとなっていたカリマンタン島への首都移転についても、2021年内に法案成立、2022年から第1期工事開始との報道もある。政府閣僚は今後15年、20年をかけて開発していくと意欲を示している。一方、移転費用の捻出や候補地周辺の住民問題など課題があり、注視が必要だ。
2022年10月には、G20サミットがインドネシアで開催される。ジョコ・ウィドド大統領は、東南アジア唯一の参加国として、各国首脳に対して「コロナ禍からの立ち直り」と同時に「東南アジア、そしてインドネシア市場は開かれている」ことを強く訴えたい構えだ。感染を低く抑えたまま、会期を迎えコロナからの回復を諸国にアピールすることができるか、新型コロナウイルスの抑え込みと経済回復の両立が求められる1年となるだろう。加えて、2023年にはインドネシアはASEAN議長国になる。外交面でも重要な2年間となりそうだ。
取材協力:JETROジャカルタ事務所 尾崎 航 氏