インドネシア政治・経済予測 2023

コロナ禍からの脱却を経て、復興を目指すインドネシア。2023年の政治及び経済、外交、さらには政策導入による日系企業への影響について、ジェトロ・ジャカルタ事務所の尾崎 航(おざき こう)氏に、2022年10月にお話を伺いました。

足元におけるコロナのビジネス環境への影響は?

(22年11月時点では)インドネシアの経済活動制限が継続しています。ただ、政府の規制レベルでは最も緩い「レベル1」が全国に向けて発布されているという状況です。ですから現実には道路渋滞もコロナ前の平時の頃のような状況に戻ってきています。企業様の活動それ自体は、すでに普通の状況に戻ってきていると認識しています。

また国境も開きまして、商用目的で到着ビザの取得が可能になりました。ですから、日本をはじめ、ASEAN域内の統括拠点の一つであるシンガポールなどからのビジネスの渡航者が増えている、調査目的で渡航される方が増えているという状況です。

しかし残念ながら、これが新たな投資に繋がっているかといえば、まだそこまでには至っていません。例えば、外食産業では2023年にかけてインドネシア1号店を開こうとする企業様が複数いらっしゃいますが、全体としては新規進出は中々進んでいない状況だとみています。新規進出については、23年あるいはそれ以降に進むことを我々としては期待しています。

コロナ禍の反動による個人消費が活発な状況はいつまで続くのか

インドネシアは元々、内需や消費が経済を支えてきた国です。個人消費が今般、コロナ禍の反動で活発化しているのは、非常に喜ばしいことと考えています。

特に、ホテルやレストランといったサービス産業はコロナ禍で厳しい影響を受けたわけで、こういった業界がどの程度業績回復しているかは注意深く見守る必要がありそうです。

一方、政府が9月に燃料価格の引き上げを行った結果、それに伴って消費者物価指数(インフレ率)が年率で6%近く上がっているのが現状です。そうした背景もあってか、消費者信頼感指数が直近では低下しており、10月の段階では消費に少し翳り(かげり)の兆しが見て取れるかなというように感じます。

中銀の目標レンジに収まらず直近のインフレ率

インドネシア中央統計庁(BPS)によると、2022年11月のインフレ率は前年同期比5.42%の上昇となった。食品価格と交通運賃の上昇で、中央銀行が2%から4%と設定している目標レンジを6カ月連続で上回っている。

ただ、10月の5.71%上昇からはやや減速している。インフレ率が高水準にあるのは9月の燃料価格調整によるもので、インフレ率の算出項目のうち、燃料価格、航空運賃、都市内交通費がいずれも上昇している。

政府の価格管理品目と変動しやすい食品価格を除いたコアインフレ率は、10月の3.31%上昇から3.30%上昇へとわずかに減速した。米の価格は、値上がりペースが鈍化したものの、11月も上昇した。

インドネシアの貿易を取り巻く状況は?

輸出入の統計を見ていきますと、 石炭やパーム油といったコモディティ関連の価格の高騰が見られます。これにはウクライナ危機の影響もありますが、インドネシアからの輸出超過(貿易の黒字状態)がずっと続いています。

また、中国のゼロコロナ政策(2023年1 月8日終了)の影響で、インドネシアからの輸出が少し停滞しているというような報道も出ていますので、これが今後どういう影響を及ぼしていくかは注目するポイントだと思います。

アフターG20のインドネシアの外交姿勢はどうなる?

2022年は年末にかけて、20カ国・地域ビジネスサミット(B20)に引き続き、主要20か国首脳会議(G20)がインドネシアで開催されました。2022年1年、そして特に11月はインドネシアの外交上、非常に重要な期間でした。

G20を巡っては、開催前から、ロシアの参加に反対する米国等からの圧力にさらされ、難しい舵取りを求められました。それに屈せず、ロシアとウクライナ双方を招待し、利害が異なる各国の意見をまとめ上げ、首脳宣言採択までこぎ着けたことはインドネシアにとって大きな成果であろうと思います。またひとつ、インドネシアが国際社会での評価をあげたといっても良いでしょう。

23年にはインドネシアがASEAN議長国になります。そして、「日本・ASEAN関係50周年」という節目の年でもあります。政治的イベントとして括るのであれば、2024年にある大統領選挙、総選挙まで続いていくというような状況かと考えます。

外交では、国際的にはロシア・ウクライナの問題が大きいわけですが、ASEAN域内に目を移すと、ミャンマーへの対応も大きな課題として残っています。22年の議長国だったカンボジアは比較的柔和な態度でミャンマーに接していたと各国は見ていますが、これが23年に議長国がインドネシアになると、「民主主義を重んじる国のひとつであるインドネシア」が舵取りを行なっていく中で、来年がミャンマー問題に対するASEANとしての対応が変わる潮目の年になるかもしれません。

ミャンマー問題、発生の経緯

2020年11月に実施されたミャンマー連邦議会の総選挙で、与党・国民民主連盟(NLD)が改選議席476議席のうち8割以上を占め圧勝した。しかし、敗北を喫した国軍と国軍系の連邦団結発展党(USDP)は総選挙に不正があったとして抗議を行っていた。

2021年2月1日未明、国軍はウィンミン大統領、アウンサンスーチー国家顧問、NLD幹部、NLD出身の地方政府トップら45人以上の身柄を拘束。ウィンミン大統領とアウンサンスーチー国家顧問は首都ネピドーにあるそれぞれの自宅に軟禁された。

軍出身のミンスエ第一副大統領が大統領代行(暫定大統領)に就任し、非常事態宣言の発出を命じる大統領令に署名し、国軍が政権を掌握。また、ミン・アウン・フライン国軍総司令官に立法、行政、司法の三権が委譲。同司令官は直ちに国家行政評議会を設立し、その長である国家行政評議会議長に就任した。

日系企業の皆さんは現状をどう捉えている?

ジェトロでは年に1回、インドネシア国内で事業をされている日系企業向けに調査を行っています。これは日系企業の活動についての実態調査です。これへの各社様の反応を見ますと、営業利益の回復が見られる、追加投資に回せる資金が出てきているといった前向きなコメントが得られます。

また、追加投資に対する意欲についても尋ねています。例えば、昨年21年度の状況では、営業損益が黒字に回復してきている業種としては、製造業なら自動車関連の企業様、非製造業であれば物流関連の企業様などが挙げられます。
 
しかし、そのトレンドが22年も続いているのか、今後1、2年かけて利益が拡大する企業様が増えていくのかどうかというところは、引き続き調査を進めていきたいと考えています。

日系企業へのヒヤリングを通しての印象ですが、コロナ禍のあおりで海運業界がまひ状態にあり、物流費が高騰した頃と比べると、22年後半は少しは落ち着いてきている状況だと感じます。

その他、目下の問題は自動車関連のメーカーを中心に半導体不足の影響を受けているところで、重要な経営課題だとする声が上がっており、解決策が見えないという声も依然としてあります。

24年に大統領選挙に向けた動きは?

2023年は年間を通じてインドネシアの外交周りではASEAN議長国の関連で忙しい1年になるとみています。そうこうしているうちに、6月から選挙プログラム・予算の設定が始まり、10月には大統領・副大統領候補者の届け出が行われる予定です。年後半にかけて選挙に向けた動きが活発化するのではないでしょうか。

大統領選挙については、何人かの候補者名が取り沙汰されているところです。候補となりそうな名前として報道で取り上げられているのは、ジャカルタ特別州の現職知事であるアニス・バスウェダン氏をはじめ、ガンジャル・プラノウォ中部ジャワ州知事、リドワン・カミル西ジャワ州知事などでしょうか。報道では、プラボウォ・スビアント国防相を推す声が多いと報じているものもあります。

インドネシアにあるシンクタンクの担当者に話を聞いたところ、「ビジネスや経済に長けた候補者があまりいないのでは?」という印象を持っているようでした。

また、「インドネシアの選挙は人気投票的な側面がどうしても強い」とも指摘していました。日本含め色々な国で課題は共通しているかと思いますが、本来であれば、候補者それぞれが経済方面の政策をきちんと作るべきでしょうし、そういった政策を国民1人1人がしっかりと理解して投票行動につなげられるかという、そもそもの政治に対する意識の造成が必要なところもあるのかなというふうに感じます。

計画されているカリマンタン島への首都移転について

政府は新首都・ヌサンタラへの2024年の移転を目標としており、大統領宮殿やダムなどの施設建設に着手しはじめたわけですが、22年6月に新首都に行った際の実見では、まだ山を切り開いているような段階でした。今後の進捗状況は現地を訪問するなどして改めて確認したいと思っています。

政府は2045年までの人口予測を出しています。アイルランガ・ハルタルト経済担当調整大臣は首都移転について「今後、20年、30年単位で進めるプロジェクト」と指摘しており、長期的に見ていく必要があると思っております。

したがって中期的には、ジャカルタが引き続き経済の中心であり続けることは、おそらく間違いありません。一方で、首都移転の動機としては、交通渋滞、大気汚染、そして地下水汲み上げによる地盤沈下といった問題があります。

言い換えれば、ジャカルタが経済の中心として機能し続ける限り、現状抱えている問題の抜本的な解決には繋がらないわけです。

政府が出している2045年の人口予測によると、新首都の予想人口は200万人ぐらいで、現状のジャガルタやスラバヤといった大都市と比較しても、決して多くありません。そんな状況もあり、在インドネシアの各企業は「新首都関連の新しいビジネス需要は本当に活発化するのか」といった疑問を持ち続けているようです。

首都移転プロジェクトは、ジョコ大統領の「肝入りの政策」と言われています。しかし、これも大統領選挙の行方と関連しますが、次の大統領がしっかりとこの政策を引き継ぎ推進していくかというところも、注目していかなければならないなと思っています。もっとも法律で首都移転が制定されているため、大きな
方向転換をする場合にはそれ相応の理由が必要になるのではと考えています。
 
なお、今でも新首都の建設予定地に行くこともできます。最寄りの都市であるバリクパパンまで行き、そこから山道に入って車で2時間ほどです。ただ、現在高速道路を開くために工事を進めており、これが完成すると最終的にはバリクバパンから30分ぐらいで新首都まで行けるようになる予定です。

新首都開設にあたり政府は、外資企業をはじめとした民間企業に積極的に参画してほしい、PPP(官民連携)方式で開発してくれといったような考えを持っているようです。ただ、そうなるとなかなか日系企業だとそこまで食指が動かないように見えます。そうした中、韓国企業の動きは活発です。上水道の整備でコリアウォーターが入るといった動きも出てきており、この局面では韓国企業のほうが積極的だな、といった状況にあります。

ジェトロとしても、他機関と連携したオールジャパンの体制で情報提供をしていくことが必要かと思っているところです。

ヌサンタラへの首都移転計画

カリマンタン島に首都を移転するとの計画は2019年、ジョコ大統領が発表。新首都の名称はヌサンタラ(Nusantara)と称する。総土地面積は25万6,142ヘクタール、中心部は5万6,180ヘクタールとの青写真が示されている。
 
2020年中にも建設開始を予定していたものの、コロナ禍の影響で法整備が大幅に遅れていた。

ヌサンタラへの2036年夏季五輪誘致

ジョコ大統領はG20サミットの場で、2036年の夏季五輪とパラリンピックを、新首都ヌサンタラに招致すると正式に発表した。

この発表に対し、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は「スポーツの政治的中立性に関して支持を表明し、五輪とパラリンピックが持つ、平和への統一への力を強調したことに、IOCは大いに感謝する」と歓迎の意を表した。

「商品バランスシステム」導入への影響は?

インドネシア政府は、2018年から「国産品優先政策(P3DN)」を実施しています。この政策は、産業の競争力強化についてのプログラムで、インドネシア産の原材料・部品の利用を積極的に促進するものです。

2021年2月には、アグス・カルタサスミタ工業相が「国内産業を発展させるためP3DNの取り組みを加速していきたい」と発言し、同政策を強化する姿勢を見せています。工業省は、2022年に国産品への輸入代替目標を2019年の35%としています。

また、最近では「商品バランスシステム(SINASーNK)」が導入されました。この「商品バランス」は、インドネシア政府が推進する「国産品優先政策」、「国産化率(TKDN)」と並ぶ重要なキーワードだと考えています。

政府が打ち出している「国産品優先政策」は、商品の国産化率を上げることを目標として証明書を発給したりなどを行い、インドネシア国内で生産された商品、あるいは国内生産の要素が多い商品を積極的に使っていきましょうというものです。「商品バランスシステム」の導入は、「国産品優先政策」の一環であると解釈できそうです。

「商品バランス」は、国内の需要量と国内外の供給量をデータ化、それに基づいて輸入許可の発給、輸入割当を行っていくというシステムです。政府がこのシステムを打ち出した理由としては、輸入手続きにかかる透明性の向上、汚職の防止などが挙げられます。

政府としては国内で供給が賄えるものについては国内からの調達を進めてほしいという意図が背景にあるのではないかといわれており、日系企業の間では輸入量の締め付けにつながるのではないかという懸念が広がっています。

今後の日系企業の事業運営に影響を及ぼす可能性が高いので、引き続き注視が必要です。
現状、各社は23年に向けて需要量や供給量のインプットについて対応しているところです。実際の問題が起こってくるとすれば、23年以降になるわけですが、現状ではどういう結果が起こるのかはわからないですが、仮に本当にその輸入締め付けに繋がってくるような形になると、日系企業の間でも操業に影響を受けるところが出てくるのではと考えています。

政府調達品における国産品比率

政府は11月、2023年の政府調達品のうちの国産比率として95%の達成を目標としている。こうした考えは、インドネシア製品は品質が劣るとのイメージの是正を実現するもので、製品が必要な仕様を満たす限り、国産品の購入を優先する構えをみせている。政府は2022年3月、省庁や地方政府の輸入調達率を遅くとも2023年中に5%まで削減するとの目標を掲げた。

インドネシア政府が「国産化率」を気にかける中、日系企業はどう対応すべきか?

インドネシア国産品をなるべく使いなさいという「国産化推進政策」が強まってきているのは、やはり肌感覚として感じます。ルフット・パンジャイタン海事投資調整相は「インドネシア政府はインドネシア製品を優先する。

各省庁や国営機関で政府調達用の電子カタログ(Eーカタログ)を活用することで、国産品を増加させる」とし、「国産品の利用が増えると、雇用の吸収や福利厚生の向上に影響する」と期待を示した発言を行っています。

「商品バランスシステム」に関しても国産化推進政策の一環と読み解く意見もあります。政府の方針としては、「国内産業の競争力の向上」「中堅・中小企業の保護・競争力強化」を軸として掲げており、これに加えて、インドネシア国産品の商品力を向上させて、インドネシアの輸出能力・競争力を向上させたいというような大きな流れがあると見ています。

インドネシアでは、2020年11月に「雇用創出オムニバス法」が成立しました。これはもともとあった70以上もある法律を一度にまとめて改正したものです。同法の施行を受け、外資の出資比率制限が撤廃された業種が大幅に増えてはいます。政府としては、外資によってより大きな投資、それも特に雇用を生み出しやすい業種への投資を行ってもらい、インドネシア国内での雇用をより多く生んでほしいと考えているようです。

それ以外の面で言うと、外資企業がインドネシア国内で製造することによって、国内の中堅・中小企業への技術移転を進めてほしい、進めさせたいという意図を感じます。ジョコ大統領は10月、インドネシアの大手銀行とメディアが行ったイベントに登壇した際、「省庁や地方自治体、国営企業などが国産品の調達を推し進め、中小零細企業、ひいては国内経済の強化につなげるべき」だとする考えを改めて示しました。

Eーカタログに関して言うと、22年8月までに、Eーカタログを活用した購入プロセスが、中央政府、地方政府から国営企業まで既に始まっているとも報じられており、これからも国内・国産品をどんどん使っていく、国産品のみ使用可能にしていくといった流れは、大きく変わらないと考えています。

2022年10月時点でEーカタログにおける政府調達品の購入額は654兆ルピアですが、そのうち国産品が占める
割合は44%に達しています。

こうした政策は、インドネシアの経済をより繁栄させていく、成長させていくための戦略としては理解できるのですが、やはり現地に展開されている日系企業、特に重要な部品等を海外から輸入している日系企業の立場からすると、ビジネス展開がしにくくなっていると言わざるを得ません。

経済成長に向けての総括

インドネシアの今後の経済成長の見通しを述べておきたいと思います。

現在は、資源の輸出が好調で、貿易黒字が膨らんでいる一方、インフレ率が上昇しているという局面にあります。もっともウクライナ危機の問題がいつどうなるか、という問題は残るものの、GDP成長率が上がる、インフレが進行する、という展開でいくと、23年の最低賃金上昇率はおそらく高くでてくるのではな
いかという予想があります。

ちなみに、22年はコロナ禍からの影響からまだ脱していないという背景もあって、例年よりは低く出された印象がありますけれど、23年についてはどのぐらいで出されるのかというのが、現地で活動されている企業各社が気にされている観点のひとつではないかと見ています。

JETROジャカルタ事務所 尾崎 航 氏より総括

2023年は、ポストコロナの動きが本格化する1年になると思います。繰り返しになりますが、政治的にみれば、ASEAN議長国としてのインドネシアの立ち回りが注目され、そして2024年の大統領選挙に向けた動きが激しくなる1年になると予想します。選挙に関連した動きがビジネス界・経済界にマイナスの影響を与えないことを祈ります。

経済的には、国内外の課題が多々ある中で、平常時(5%程度)の経済成長を続けることができるかどうかがやはり注目されるのではないでしょうか。

我々としては、日々の情報提供や事業実施を通じ、インドネシアに進出しようとする企業様、そして既にこちらに進出していらっしゃる企業様の事業運営・拡大を全力でサポートしてまいります。
皆さまのお力になれるように、所員一同精進してまいります。