5000人突破!ライフネシア公式LINE・登録はこちら

マクロ経済から見たインドネシアの現状と将来像

インドネシアの経済と消費市場について、JETROジャカルタの山城武伸シニア・ ディレクターのお話をもとに、現状および将来の姿を追ってみました。
(2018年12月 インドネシア経済・政治概況をもとに構成)

豊富な労働力を持つ国

インドネシアで展開している多くの日系製造業各社は、比較的廉価で豊富に得られる労働力に魅力を感じて進出しています。ASEAN周辺国などを比較してみると、インドネシアの賃金水準はおおむねフィリピンとベトナムの中間にあります。なお、 中国の平均と比べると3〜4割インドネシアの方が低い水準です。

「就労人口の推移」を見てみると、総人口の伸びは年ごとに減速していますが、就労人口(15〜64歳)は1年当たり200〜300万人ずつ増えています。

けれどもインドネシアが抱える大きな問題は、「不完全就労者」が就労人口の3割以上いることです。この「不完全就労者」を統計上の定義でいうと、「1週間の労働時間が35時間未満」となっていますが、実は会社などに属さず、物売りやさまざまな方法で「日銭」を稼いでいる人が多くを占めます。

ここで浮かび上がってくる課題は、こうした「不完全就労者」をいかに会社などできちんと雇用できるかというものです。「給与所得者」を増やせば、納税者が増加します。かつて農業で自給自足していた人々が住んでいたような場所に開かれる工業団地に日系企業が進出することで、「不完全就労者」の「給与所得者」への転換に貢献することにもなります。

ASEAN主要国・中国・インドの職種別月額賃金

主要都市の最低賃金(2019年)

日系企業の進出が多いジャカルタ西 郊外の西ジャワ州ブカシ(Bekasi)やカラワン(Karawang)はインドネシア国内で最も賃金水準が高く、首都ジャカルタ特別州よりやや高めの水準となっています。

なお、全国ベースの法定賃金上昇率は前年比8.03%で、各県はそれに準じた賃上げを認めましたが、スマラン市のみ地元の労使間交渉の結果、8.16%の上昇となりました。

各主要都市の最低賃金

  • ジャカルタ特別州……394.1万
  • ブカシ県………………414.6万
  • カラワン県……………423.4万
  • プルワカルタ県………372.2万
  • タンゲラン県…………384.1万
  • バンドン県……………283.3万
  • スマラン市……………249.9万
  • スラバヤ市……………387.1万
  • パスルアン県…………386.2万
  • バタム市………………380.6万
出典:JETROホームページ

ジャカルタの最低賃金は約3万円

現地の報道資料によると、ジャカルタ特別州の2018年の最低賃金は364万8,000ルピア(3万円強)となっています。これは6年前(2012年)と比べると2倍以上に増えています。この間のインフレ率は最高で8.8%となったものの、概ね年率4〜7%前 後で推移していましたから、この賃金水準は非常に速い速度で上がっているといえます。なお、18年は8.71%の上昇となりました。

石油の純輸入国となったインドネシア

インドネシアは「豊富な資源を持つ国」です。確認埋蔵量で見れば、2014年時点で石炭は世界10位にランクされるほか、天然ガスは14位、石油は29位といずれも上位にあります。日本はインドネシアから液化天然ガス(LNG)を大量に輸入していますから、多くの人が「インドネシアはアジア有数の資源国」という印象を持っていることでしょう。

ところがインドネシアはすでに石油の純輸入国となっています。1990年代はアジアも屈指の産油国でしたが、石 油生産設備の老朽化に加え、国内需要の著しい伸びにより、 2003から04年にかけて輸入量が輸出量を上回ってしまいました。産油国では本来、古い油田の老朽化を見越して新しい油田を開発しますが、インドネシアでは1990年代後半のアジア通貨危機が影響し新規油田への投資が進まず、1995年から2007年にかけて12年連続で産油量が減少、2008年にはとうとう石油輸出国機構(OPEC)から脱退しました。

政府は2011年に制定した法人税一時免除制度(タックスホリデー)の対象に石油採掘・精製業を組み入れるなど、石油開発への投資促進に向けた政策を打ち出しましたが、有権者を意識した外資規制の厳格化によりそれも機能せず、現状において純輸入国から脱する気配は見られません。

インドネシアの石油生産・消費量出典:BP Statistical Review of World Energy 2012/JETROジャカルタ事務所 が作成)
鉱物資源の生産では世界で有数
インドネシアは鉱物資源の生産で依然、世界でも有数の地位を保っている。米国地質調査所による2011年のデータによると、生産量でインドネシアはニッケルで世界1位、錫で2位、ボーキサイトで3位、錫で4位。日本もこれら4つの鉱物の輸入についてインドネシアに大きく依存していました。しかし、近年インドネシア政 府が未加工鉱物の輸出が禁止政策を打ち出したため、取引出来なくなった鉱物もあります。

インドネシアの経済見通しはおおむね横ばい

インドネシアの実質国内総生産(GDP)成長率統計から、この国の経済がどのように推移してきたか見てみましょう。

インドネシアマクロ経済

過去20年の統計では、1997年に起きたアジア通貨危機の影響でその翌年(1998年)に前年比13.8%マイナスという大きな試練もありました。しかし、その後2000年以降は概ね4〜6%で推移し、「上振れ、下振れが小さく、安定した成長」を続けて来た と言って良いでしょう。

2018年は前年(2017年)の5.07%増からやや上昇の5.1%増となりました。政府は5.2%の成長を見込んでいましたが、ほぼ横ばいとなった格好です。

なお、2019年の見通しについて国際通貨基金(IMF)は、2018年7月発表時の5.3%増との予想から、2018年末までに5.1%増に引き下げました。これはインドネシア国内の事情というよりは、世界情勢の変化によるところが大きいようです。具体的には、依然として米中間の貿易摩擦問題に解決の道筋が見えないことに加え、中国経済の失速、さらに米国の利上げの可能性などが影響するものとみられています。

このような背景のもと、対中ビジネスの減速に備え、物流や設備、機械業界では不安感が広がりつつある他、石炭をはじめとする資源採掘分野での設備 投資が控えめな傾向にあります。

なお、インドネシア政府は2019年国家予算案での想定として、GDP 成長率は5.3%増、インフレ率が3.5%増との見方を示しています。

為替はどのように推移するか

インドネシアの通貨ルピアの為替相場はどのように推移するのでしょうか。

これまでの経緯を見てみると、アジア通貨危機の低迷期から脱した2009年以降、資金流入が拡大しルピア高傾向で推移しました。 その後約2年は「ボラティリティー(Volatility=変動幅)が小さい安定した通貨」として、外国からの資金が引き続き流入しました。

ところが、2012年には石油需要が大幅に増えたことで、輸入が増加したことから貿易収支が赤字(出超)に転落しました。これに引きつられる格好で急激なルピア安となり、しばらく下落傾向が止まりませんでした。そして2016年の年頭に原油価格が急激に下落、ルピア相場も不安定となりました。

2018年末の対米ドルルピア相場は前年同期と比べて約6%下落しました。その結果、輸出をメインとした製造業では為替差益に よる恩恵を受ける形となりましたが、サービス業などでルピア建て での販売、営業を行っている法人では国外からの仕入れが苦しいという状況が生まれたことでしょう。

なお、2019年初時点でのルピアの対米ドル相場は約1万4500 ルピア。インドネシア政府は2019年国家予算案での想定として、 対米ドル相場を1万5000ルピアと示しています。

日本からの投資に引き続き依存

インドネシアへの外国直接投資(FDI)は2009年以降、順調に増加で推移しています。投資先を地理的に見るとFDI全体の半 分以上がジャワ島にもたらされています。一方、業種別では資源系 の鉱業が13.7%と最も多くついで運輸・倉庫・通信が11.2%、金属・機械・電機の10.6%となっています(投資調整庁・BKPM、 2015年統計)

FDIの投資元の国がどこなのか、という統計を見てみますと、 2011年以降日本とシンガポールがそれぞれ1位、2位を占めています。ただ、シンガポールについては「インドネシア人(おそらく華人系)からの資本がシンガポールを回流して国内にもたらされたもの」と見る向きが多いですから、事実上のFDI投資額のトップは一貫して日本であった、と考えることもできます。

2015年はマレーシアに抜かれ、第3位となりましたが、日本の投資金額は増加しています。さらに2017年の日本による投資は過去最高水準に達したもようです。つまり、日系企業はインドネシアで高いプレゼンスを持っていると意識してよいのではないでしょうか。なお、2015年以前に上位5位に入っていなかった中国の動きが活発です。

日系企業によるコンビニ商材が増加

2016年後半から、日系企業によるコンビニ向け商材が伸びて来た傾向があります。これは2012〜13年に進出を決め、その後工場を建設し、生産ラインが本格的に稼働したことによります。具体的な商材としては、カルビーのポテトチップス、グリコの氷菓が目立つほか、中食分野で『和食さと』が弁当の販売をパイロット的に始めています。