独特の死生観と葬儀の風習で知られるトラジャ族。崖壁を彫って作る墓が有名だが、タナ・トラジャのカンビラ村には、乳児の遺体を木の幹に埋葬する風習がある。
同村では、乳児の遺体をタラの木に埋めることは、乳児を母親の子宮に戻すことに等しく、その後に生まれる命が救われると伝えられている。この葬儀の風習は、まだ歯が生えていない乳児に限られ、祖先を信仰するトラジャ族によってのみ行われる。木の成長とともに乳児も成長するという思想のもと、遺体は胎内にいるときと同じく何にも包まれずに、立った状態で安置される。タラの木の豊かな樹液は母乳の役割を果たすと考えられている。タラの木の直径は約80〜100cm。乳児の遺体は、幹に開けられた穴のなかに自宅の方角に向けて安置され、木の葉で覆われる。木の穴の位置が高いほど、その家族の地位が高いことを意味する。将来再び健康な子どもを産める可能性が低くなるという教えから、葬儀後一年間は、母親は赤ちゃんを見ることが許されない。
数十年後には穴は自然に閉じ、乳児の遺体はそこに残る。遠くから見ると、木の幹には黒い箱型の斑点がたくさんあるように見える。他の木と同じように元気に成長するタラの木は、生命の継続、乳児の来世への旅を妨げないよう、いかなる場合も伐採することは許されていない。