ガムランの音色が響き渡る中、人々の熱気に包まれて遺体を乗せた巨大な塔が担ぎ上げられる。これは、バリ島で古くから行われている神聖な火葬儀礼「ガベン」の光景である。死を悲しむ場ではなく、故人の魂を涅槃へと送り出すための重要な儀式として島民に親しまれている。
現地のヒンドゥー教の教えでは、人は肉体と魂から構成されており、死後は魂を縛り付けている肉体から早く解放しなければならないとされる。そのためガベンでは遺体を炎で焼き、肉体を自然の五大要素へと還す。この炎はブラフマー神の化身とされ、穢れを浄化し、魂を創造主の元へ導く役割を果たす。
儀式の象徴となるのが、遺体を運ぶ多重塔バデと、火葬に使われる神話の動物などを模した棺パトゥランガンである。これらを用意するには莫大な費用がかかるため、資金が貯まるまで遺体を一時的に土葬し、数年後に掘り起こして火葬したり、村全体で合同のガベン・マッサルを行ったりと、人々の経済状況に合わせた工夫がなされている。近年では、労力と費用を抑えるために車輪のついたバデも登場した。
また、バリ島の山間部にはガベン・ベヤ・タネムと呼ばれる「土葬」の様式も存在する。神聖な山や寺院に火葬の煙を当てないためや、過去のマジャパヒト王国の影響への抵抗といった歴史的背景があるとされるが、火の代わりに線香を用いることで、火葬と同じ魂の浄化を果たしている。
形は様々に変化しても、ガベンの根底には、故人の魂の平穏を願うバリ島の人々の深い愛情と祈りが込められているのである。
【もうひとネタ!】
車輪付きの神輿や合同葬など、伝統の核を守りながらも現代の経済状況や合理性に合わせてアップデートしていくバリ島の人々の柔軟性が非常にユニークである。


















