ジョコ・ウィドド政権は2020年12月30日付けで、インドネシアのイスラム急進派で最近相次ぎ社会不安を煽っていた「イスラム擁護戦線(FPI)」の活動を禁止する措置に踏み切った。
地元ニュースは早速ジャカルタ・タナアバン地区にあるFPI本部や周辺部にあるFPIの立て看板や垂れ幕などを一斉に撤去する様子を伝え、政府のFPIに対する方針が厳しいものであることを印象付けた。
FPIはイスラム教の重要な宗教行事である「プアサ(断食)」最中に営業しているカラオケ店や居酒屋などに対して「プアサ期間中はイスラム教徒に敬意を表して営業自粛すべきだ」としてシンボルでもある白衣姿の男性らが押しかけて強制的な「営業妨害」などの強硬手段を取る組織として名を馳せた。
平和的デモの妨害やバスキ・チャハヤ・プルナマ(アホック)ジャカルタ州知事の「宗教冒涜罪」裁判にも関与し、2020年11月10日にサウジアラビアに事実上亡命していた指導者ハビブ・リジック・シハブ容疑者が帰国するとさらに活動を活発化させていた。
サウジ滞在中はインドネシアでの「革命を画策していた」とも伝えられ、帰国後も政府批判を繰り返す同容疑者は政権にとっては「目障りな存在」になっていた。そこで政府、治安当局が「利用」したのが折からのコロナ禍で、リジック容疑者帰国に関わる集会、デモなどがコロナ感染拡大防止の「社会的プロトコル」違反であるとして抑えこみにかかった。それでも不足とみて治安当局はリジック容疑者の身柄を拘束し、ついにFPIの活動禁止に踏み切ったのだった。
FPIメンバー6人の射殺事件が警察による人権侵害の可能性が指摘されるなど国軍、国家警察など治安当局にとっても「厄介な存在」となっていたこともジョコ・ウィドド政権がFPIを切り捨てる判断に至った一因とされている。
だがその背景にはもっと深い政治的動機が潜んでいるとの見方が広がっている。それはジョコ・ウィドド内閣における主導権争いで、イスラム組織の長老であるマアルフ・アミン副大統領、さらにリジック容疑者と親しい関係といわれたジャカルタ特別州のアニス・バスウェダン知事と同知事に繋がる「グリンドラ党」人脈への「示し」であり、その意図することは「おとなしくしておけ」であるとの見方が広がっているのだ。2021年もインドネシアの政治から目が離せない。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。