インドネシア国軍のハディ・チャフヤント司令官が軍幹部に対して、インドネシア社会で急速に広まっているインターネットやSNSの影響力に関して「テロや急進派などの活動やプロパガンダに利用されており、社会の潜在的脅威となっている。軍は治安組織としてこうした動きを警戒しなければならない」という趣旨の発言を行った。
これはハディ司令官が2月16日に東ジャカルタの国軍司令部で開かれた会議で言及したもので「ネットやSNS」を「新たな社会の武器」と位置づけ、テロ組織や急進派などがメンバーや同志をリクルートしたり、宣伝活動に利用したりしている実態に触れ、軍はこうした動きを封じ込めなければならない、との立場を強調したのだ。
さらにネットやSNSが社会の動きに与える影響の実例として欧米社会や東南アジアでの事例を挙げた。具体的には欧米各国で広まった女性や性的少数者への差別撤廃運動、さらにタイそしてミャンマーで繰り広げられている民主化要求の市民運動のことを指摘しているものとみられている。
インドネシアの場合はこうした民主化要求や差別撤廃の動きとは異なり、LGBTなど性的少数者やパプア地方などの少数民族問題、武装闘争の動きさらにキリスト教徒や仏教徒など宗教的少数者などに対する「ヘイト・スピーチ」や「差別助長」「フェイク・ニュース」など信憑性に乏しいものを含んだ種々の情報がネットやSNSを通じて拡散することで社会的不安が煽られる傾向がある。
特にコロナ禍の現在ではコロナ感染者に関する情報やワクチン接種について国民の不安を煽るような種々雑多な情報も氾濫している。
インドネシア情報省は2020年10月にこうした偽情報やフェイク・ニュースを垂れ流すSNSのアカウントをブロックする方針を示したが「表現の自由を損なう」との反対から徹底した対策が取れていないという。
ネットやSNSに対する規制導入には「社会不安の扇動抑制」と同時に「言論や表現の自由制限」という二律背反のような問題が突きつけられるのが常だ。要はそのバランスをいかに保つかであるが、これが難しい。
今回、国内治安担当の国家警察ではなく、国防が主任務の国軍までがこうした危機感を共有したことに、インドネシアのネット、SNSが直面するあまりに野放図な実態が反映されているといえるのではないだろうか。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。