中部ジャワ島マゲランのボロブドゥール遺跡は、過去の文明を表す古代建築の傑作。灰白色の火山岩のブロックを正確に積み上げて最上層に主仏塔を載せた、階段ピラミッド状の構造となっている。基礎部分は125x125mの正方形で、地上から主仏塔の頂上までの高さは約34m。仏教における「三界」を象徴する3つの階層に分かれており、訪問者は四方すべてに設けられた階段を使って各階層を巡ることができる。
1層のみで成る下層は、人間の世界「欲界」を象徴している。同階層には、因果の法則、暴力、窃盗、誹謗中傷といった世俗的な欲望に支配された人間の行動を描いたレリーフがある。5層から成る中層は、欲や煩悩から解放されたものの物質や肉体の束縛からは脱却できない段階「色界」を表しており、大乗の仏伝経典ラリタヴィスタラ、ジャータカ・アヴァダーナなどのレリーフで装飾されている。同階層には1212枚の装飾パネルと、全長2.5kmに及ぶ約1300層のレリーフがある。3層から成る上層は、悟りの境地、涅槃(ねはん)の世界「無色界」を象徴している。この部分にはレリーフはなく、清浄と悟りを象徴する穴の開いた仏塔が列を成している。考古学的な価値だけでなく、世俗的な束縛から解放され聖なる境地へと至る、精神的な旅も体感できるアジアの至宝だ。