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ジャカルタ・バンドン高速鉄道計画 新たに環境問題浮上 進捗に影響も

インドネシア政府が中国に「受注させた」首都ジャカルタから南郊の西ジャワ州バンドンを結ぶ高速鉄道計画は、土地収用難航やコロナ禍の影響などで完工時期が大幅に遅れ、現在も工事が続いている。

これまでも土地収用に絡む補償問題、現場で働く中国人労働者の滞在資格、費用の増加などの問題が指摘されてきたが、ここにきて工事現場周辺の集落に新たに環境問題が浮上していることがメディアの報道で明らかになった。

バンドン南の建設工事現場近くの集落で「民家の壁に亀裂」「騒音、大気汚染、水質汚染」「水路の工事による変更に伴う洪水被害」などが深刻になっているというのだ。

住民は工事を請け負うインドネシア・中国の共同事業体である「KCIC」などに苦情を訴え、対策を求めたが「ナシの礫」だったことから「国家人権委員会(コムナスハム)」に直訴する事態になっているのだ。

両都市間の現在の所要時間3~5時間を約45分に短縮するというこの高速鉄道計画は、2015年の入札で日本と中国が激しく争い、安全性とインドネシア政府による債務保証を求めた日本に対し、債務保証だけでなく財政負担も求めず、工期短縮、建設費用圧縮などを前面に出した中国にインドネシア政府は受注を決めたという日本にとっては「因縁」の背景がある。

「コムナスハム」は近く実態調査に乗り出し、KCIC関係者への事情聴取も進めるとしている。しかしKCIC側は「住民の問題には真摯に対応する」という姿勢を示しながらも「騒音や大気汚染は近くの高速道路の影響もある」と反論しており、国家機関を巻き込んだ環境問題の行方が注目されている。

完工が当初の2019年から何度も延期され、現状では2022年12月の開業を目指し、完工率は74%としているが折からのコロナ禍で工事は少なからず影響を受けているとされ、開業目標も疑問視する声がでている。

こうした中国受注の高速鉄道計画での予想外の困難に直面する中、ジョコ・ウィドド大統領は2020年に「共同事業体に日本を加えてはどうか」と閣議で提案したという。ジャワ島北沿岸鉄道高速化に関与している日本に頼ろうとしたのだ。中国受注時に菅首相の「受注の経緯は理解し難く極めて遺憾」との反応をもう忘れたのだろうか。親インドネシアの日本もそこまで「お人よし」ではない。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。