9月8日午前2時前、ジャカルタ西郊タンゲランにある男性受刑者用刑務所から出火、49人死亡、80人が重軽傷を負うという悲惨な事故があった。
これまでの調査ではどうも電気系統の不具合による漏電が出火原因とみられている。報道では刑務所内で受刑者が避難しようにも施錠が解かれず、逃げ場を失った多数が死亡したといわれている。
麻薬犯罪の受刑者が大半という同刑務所の建物老朽化、電気設備の不備、そして不十分な刑務所職員という問題点も指摘されているが、驚くべきは収容人員で、定員が600人のところへなんと2072人が「押し込められていた」というではないか。
今回の火災発生を受けて地元紙が過去の刑務所火災の事例を調べたところ「過去3年間に少なくとも13刑務所で火災が発生していた」という驚くべき実態が明らかになった。
各刑務所の火災原因は暴動、放火、ガス器具の爆発、漏電など様々であるが、定員915人に1478人収容(北スマトラ州ランカ刑務所)、定員1054人に3000人収容(北スマトラ州メダン・タンジュングスタ女性刑務所)、定員163人に574人収容(西パプア州ソロン刑務所)などその過密、定員オーバーは著しい。火災が発生した刑務所の実態がこうなのだから、火災のない他の刑務所の実態も例外なく「超過密状態」と思われる。
インドネシアでは近年、麻薬犯罪者が急増しており、どの刑務所も受刑者の大半が麻薬犯罪関係者でこれは男性、女性刑務所も同様で過密化の一因と指摘されている。
こうした過密状態の一方で、元国会議員などの受刑者は個室、テレビ・冷房完備、携帯電話使用自由、面会・差し入れ自由という「経済格差」も歴然と存在しているという。
たまたま知り合った受刑者と携帯電話で話をしたところ、SNSを通じて雑貨や菓子、化粧品などをネット販売してそれなりの利益を上げているとのことだった。雑居房にはタコ足配線された携帯電話充電用の電源が多く設置され、これも火災の一因になるだろうが刑務所側は見て見ぬ振り、という。
こうした実態はインドネシアの「緩く寛容な状況」としてまだ許容範囲だろうが、過密化、電気設備の不備、建物の老朽化そして不十分な人員の中、火災などの緊急時の受刑者避難と保護は喫緊の課題として取り組むべきだろう。受刑者とはいえ人権があり、その命の価値に差はないのだから。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。