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米英豪の軍事同盟“AUKUS” したたかな東南アジアで不満噴出

それは「青天の霹靂」だった。インドネシアをはじめとする東南アジア各国にとって、9月15日の突然の米英豪による軍事同盟ともいうべき「AUKUS(オーカス)」設立の発表は驚きをもって迎えられ、その後困惑、不満、疑心暗鬼が渦巻く事態を巻き起こしているのだ。

「AUKUS」は日米豪印による「自由で開かれたインド太平洋」を掲げる「クアッド」と並ぶ、あるいは補完するアジア太平洋の安全保障の枠組みである。2つが主要な対象地域としているインド太平洋には南シナ海が含まれ、周辺に存在するのが東南アジア各国である。南シナ海で中国と領有権を争うなど「火種」や「摩擦」を抱えながらも現状を維持しながら中国と向き合っている現実がある。

しかし、こうした枠組みに「周辺の当事国」たる東南アジアは含まれていないどころが、事前の調整もなくいわば部外者扱いである。これが大国の「身勝手」でなくて何だろう。

「クアッド」も「AUKUS」も名指ししていないが、中国の一方的海洋権益や海洋戦略の拡大阻止が目的であることは周知の事実である。それゆえに中国の反発は激しい。

「AUKUS」設立発表を受けてベトナム、フィリピン、マレーシアに続いてインドネシアも素早く反応。ルトノ・マルスディ外相が「域内で続く軍拡競争と戦力展開を深く懸念する」との声明を明らかにしたのだった。

海洋権益、領有権で中国と問題を抱える東南アジア各国だが、その一方で中国とは経済的な結びつきが強いのも事実で「一帯一路」や「経済支援」「ワクチン外交」などを通じて「名より実を取る」という対中外交を展開しているのが東南アジアで、持ち味の「したたかさ」を十分発揮している。

そうした中国との独自の距離感を維持して良好な関係を築いている東南アジアにとって次々と設立される軍事同盟の要素が強い「枠組み」。これが南シナ海や太平洋、インド洋での大国間の軍拡や軍事的緊張の高まり、さらに不測の事態を惹起しかねない挑発に繋がることへの懸念を呼び起こしているのだ。

インドネシア研究の泰斗の一人は「みんな同じ日本、みんな違うインドネシア」と譬える。これを「みんな同じ大国、みんな違う東南アジア」と敷衍してみてはどうだろうか。

南シナ海で頻繁に豪や米英の原潜、艦隊が遊弋(ゆうよく)すれば、インドネシアなどにとって「現状より波高い海」になるのは確実だろう。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。