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【熱狂諸島】sisi 生島 尚美 氏|バリ島でオリジナルバッグ”sisi”を製作販売

好転のきっかけは漫画と、一人の女性との出会い

住む場所に選んだのは観光地から少し離れた、地元民しか通らない辺鄙な場所だった。ウブドに来てから1ヶ月は幸せな日々だったが、働き先が決まっていない状況に、さすがに焦りを感じた。物価が低いとは言え、このままでは預金が減る一方。当時は就職雑誌などなく、インターネット環境も充実していない。その上、働き先の門を叩くほどの勇気を持てない私だった。そんなある日、住居のオーナーから敷地内に店舗を作り、運営しないかと提案された。自分にはふさわしくないと思ったが、どうしても就職のプロセスに入れないと知り、その申し出を受けることにした。

新しい地で新しいことを始めるときは、既存のものを参考にすると良い。ウブドにある日本人が経営する店舗は和食屋、洋服屋、雑貨屋の三つ。このどれかを参考にすればいい。飲食店は最初から候補になかった。実家が飲食店を経営していただけに、その大変さを知っていたからだ。雑貨屋は品ぞろえで出費がかさむ。では、洋服屋か。実際、職人さんに服の制作を依頼したが、ウブドの人は少しアバウトである。サイズを指定しても、その通りに出来上がらない。そこで、思いついたのがカバンだった。カバンであれば多少のサイズ違いも気にならない。早速、生地をそろえ、洋裁が得意だった母に試作品を頼んだ。それを元に、現地の職人さんにお願いし、出来上がったのがオリジナルバッグの『sisi(シシ)』だ。

sisi(シシ)オープン時

店舗の完成を大工に急がせた。ゴールデンウィークが迫っていたからだ。しかし、店舗も品も間に合ったものの、お客さんが来なかった。冒頭にも書いたが、ここは地元民しか通らない辺鄙な場所である。観光客は、道に迷った人しか来ない。その月の売り上げはたったの3,000円。散々な業績である。その時、よく見かけたのは、店の前を通り過ぎるニワトリと、それを追う裸の子どもたち。そして、舗装されていない道をバイクが通る度に降り注ぐ砂ぼこりを、スタッフがはたきで払う光景である。

当時の店舗は装飾品が少なく、白い壁にカバンがつってあるだけだった。友人から冗談半分で「ギャラリーだから買えないんでしょう?」と言われた事もあるほど。空間を持て余していると気づき、パテーションで区切り、半分をカフェスペースにすることにした。そして、本を並べてみた。その頃、日本から友達がよく遊びに来てくれ、その都度、日本から持ってきて欲しいものを尋ねられたので、漫画や本をお願いした。友達は悪のりし、大量の本を競って持ち込み、その数はやがて800冊に達した。

きっかけとは不思議なものだ。ウブドに漫画が読めるカフェがあると噂になり、在住者や長期滞在の日本人が来るようになった。そして、常連さんが壁にかかっているカバンを購入してくれるようになった。その流れもあってか、その頃からガイドブックや情報誌に掲載されるようになったのだ。

店を構えてから1年ほど経ったある日、店の前で道に迷っている女性を見て驚いた。私はこの女性を知っている。前日、友達を空港まで送った時に、対面から歩いてくるかわいい女性に目を奪われた。彼女はその女性だった。私は前日のことを話した。彼女はとても喜んでくれて、話が弾んだ。聞くと、彼女は神戸出身で、今は結婚してシンガポールに住んでいて、オンラインショップを経営しているとのことだった。後から気づくのだが、彼女が経営しているショップは、カリスマショップとして絶大な人気を誇る店だった。彼女は気を良くしてくれたのか、壁にかかっている『sisi』バッグを10個以上購入してくれ、その後、自分のオンラインショップで『sisi』を販売してくれるようになった。カリスマショップが扱い始めたことで、『sisi』は一気に知名度を高め、店にまで人が来るようになった。このことがきっかけで、多くの卸業者から問い合わせがあり、売り上げが一気に伸びた。

sisiが軌道に乗った大きなキッカケを下さったシンガポール在住の美人さん、2014年に再会した時の写真

ニワトリが通り過ぎ、バイクが砂ぼこりをあげるいつも光景に、『sisi』を詰めた段ボールをトラックに積み込む光景が加わった。この頃、当初背伸びして設定していた売り上げ目標の10倍を達成。まさに状況が一変したのだ。しかし、この3年後、私は日本に帰国し、『sisi』の拠点を奈良に移すことになる。その理由は、同じ場所でジッとできない私の性格にあった。

奈良店の店構え