2024年に予定されている次期大統領選と総選挙を延期すべきだとする議論がこのところのインドネシア政界の話題で、いろいろな議論が国会を舞台に繰り広げられた。ところがジョコ・ウィドド大統領自身が「大統領の任期延長も再選も視野にない。選挙は予定通りに実施されるべきだ」との姿勢を貫いており、出身母体の最大与党「闘争民主党(PDIP)」を含めた与野党の鶴の一声でほぼ収束することになった。
憲法を含む種々の法改正を伴う選挙延期論はどのように出てきて、コロナ感染拡大防止策がまだまだ必要な現状を脇に置きて「選挙延期論」の流れに乗ってどう議論されたのだろうか。
延期論の旗振り役はどうも「民族覚醒党(PKB)」あたりで、それに与党第2党の「ゴルカル党」幹部が地方遊説の途上、ジャワの農民からも同じ延期論がでたと同調。延期の理由はコロナ対策への集中、総選挙実施に伴う財政負担の回避などだが、これはあくまで表向きの理由で、実際は自党の大統領選候補者選択の遅れや世論調査結果で思い通りの支持率が出ていないことなど政治的理由があるとの見方が有力だ。
この延期論は一見コロナ対策、財政負担軽減など好材料が揃っているとして「国民信託党(PAN)」も支持に回り、与野党に支持が広がった。
大統領選を延期するということは現在2期目のジョコ・ウィドド大統領が憲法の規定である「任期5年で再選は1度限り」を逸脱する可能性も指摘され、国会事務局や法学者からは「選挙延期」が簡単な作業ではないことを示唆していた。
こうした延期論の高まりに対してジョコ・ウィドド大統領の支持母体であるPDIP、「ナスデム党」「民主党」「グリンドラ党」「開発統一党(PPP)」などの与野党が一斉に反対を支持、「形勢不利」と判断したゴルカル党も反対に回り「多勢に無勢」で一件落着、大統領選を含む各種選挙は予定通り2024年実施に落ち着いた。とりあえずは。
「ゴルカル党」は経済調整相を務めるアイルランガ・ハルタルト党首の次期大統領選への出馬が予想され、「グリンドラ党」の党首、プラボウォ・スビアント国防相がすでに立候補の意思を表示するなど大統領選への蠢動が始まっている。だが、国会議員はもっと一般庶民の目線で、国民が直面する生活問題に焦点を当てて活動してもらいたいものである。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。