ジャカルタ中心部タムリン通りに面した一等地にある「サリナ・デパート」が改装工事を終えて3月21日に営業を再開した。サリナといえば日本の戦後賠償で建設され、スカルノ大統領の乳母の名前を付けたインドネシアで初の百貨店といわれ、ジャカルタの象徴的建物だった。
インドネシアに赴任する日本人の駐在員には必読書といわれた深田祐介著の小説「ガルーダ商人」にも取り上げられている「名所」の一つであったのは間違いない。
上階にあるインドネシアを代表する民芸品やバティック、特産品のコーナーはお土産を買うために訪れる外国人で賑わったものだった。地下のフード・コートには多彩なインドネシア料理、日本料理もどき、韓国料理もどきそして選択に迷うようないろいろな果物のジュース屋と楽しい食事の時間が持てた。
1階にはインドネシア国内1号店というマクドナルドなどのファスト・フード店が並び、2階にはハードロックカフェやアチェコーヒーの店などが並んでいた。
サリナ自体は日本の百貨店と大差のないデパートで、普通に洋品、文房具、玩具なども売られていたが、バティックと民芸品でそれぞれワンフロアを占め、その品数は素晴らしいもので、1990年代は土産物を買うならば「サリナ」あるいはブロックMの「パサラヤ」と言われたものだった。
ジャワ更紗といわれるろうけつ染めであるバティックの男女の服、布地、布製品が並ぶフロアの一角には、バティックを実際に自分でやってみようという人のためにお手本となる下書きのある布地、蝋、蝋を溶かすアルミ製の火器、そしてそれ自体でも土産物になる溶かした蝋でデザインを描く「チャンティン」、図柄が描かれたスタンプ状の「チャップ(チャプ)」も売られており、特に外国人には人気のコーナーだった。バティック制作のプロによる実演もたまに同じフロアであり、じっくりと見入ってはその技法を学ぼうとしたものだった。
また1階にあった両替屋も比較的交換レートがよく、ブロックMプラザ内の「ジャカルタで最もいい交換レート」と言われる両替屋に行く時間的余裕のない時はよく利用したものだった。そんな数々の思い出がぎっしり詰まった「サリナ」が生まれ変わり新たな歴史を刻むことに対して「古き良き時代のジャカルタ」ファンは感慨深い思いがある。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。