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岸田首相の東南アジア歴訪 ウクライナ問題で説得不調

日本大型連休(ゴールデンウイーク)に合わせた外遊で、岸田首相は東南アジアと欧州を歴訪した。東南アジアではインドネシア、ベトナム、タイを訪れ各国の首脳と会談した。

今回の東南アジア3カ国訪問の主目的は、ロシア軍による軍事侵攻を受けたウクライナ問題で日本がとっている欧米などと歩調を合わせた制裁、非難そして即時停戦という価値観、政策への理解と協力を求めるというものだった。

しかしインドネシアのジョコ・ウィドド大統領やべトナムのファン・ミン・チン首相、タイのプラユット首相はまるで足並みを揃えたかのように、ウクライナ情勢への憂慮は示すものの岸田首相との共同記者会見ではロシアを名指しで非難することはなかった。

そして日本は各国とも人道的見地からのウクライナ支援の取り付けには成功し、日本外務省はそれをもって一応成果としている。ウクライナ問題以外に各国とは経済問題なども協議したが、欧米などの反ロシア陣営への引き込みは成功しなかった。

東南アジア3カ国の対応はまるで事前に申し合わせたかのようだったが、これは事前調整というより、ロシアを擁護している中国への配慮がたまたま一致したとみるのが正しいといえるだろう。

中国は独自の経済圏構想である「一帯一路」に基づき東南アジア各国への影響を強めている。インドネシアは首都ジャカルタから西ジャワ州の州都バンドンまでの約150キロに及ぶ高速鉄道計画が完工時期を大幅に遅らせながらも現在進行中であり、カリマンタン島への首都移転計画でも日本のソフトバンクが投資から手を引いたため、中国頼りとならざる状況となるなど、中国経済への依存度は高い。

ベトナムは中国同様に実質的に共産党の一党独裁体制で、領有権を争い南シナ海では対中国で時に厳しい姿勢を示すが、国内経済や軍事は中国頼みである。タイも2014年にインラック首相をクーデターで倒して政権を奪取、2019年に民主的選挙を実施したものの、プラユット政権は軍事政権と変わらず反政府メディアや民主化運動を弾圧し、中国からの経済支援を享受しているという現実がある。こうした背景から3カ国は岸田首相の対ロ制裁網への参加には消極的姿勢を示したのだったとみられている。対ロ強硬姿勢や非難を示しているのはシンガポールとマレーシアとされ、東南アジアの中国寄りは深刻だ。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。