6月15日、ジョコ・ウィドド大統領は小規模な内閣改造を断行した。ムハンマド・ルトフィ貿易相をズルキフリ・ハサン国民信託党(PAN)党首と交代させ、土地都市計画相に元国軍司令官のハディ・チャフヤント氏を抜擢しソフィアン・ジャリル氏と交代させた。
ジョコ・ウィドド大統領はルトフィ貿易相の交代について4月28日から5月23日まで続いた国際社会だけでなく国内の業者や一般市民の間にも不満が高まったパーム油の輸出禁止政策が「混乱を招いた」としてその責任を負わせた形の実質的な「更迭」となった。
だが待って欲しい。パーム油禁輸を打ち出したのは一体誰だったのだろうか。当時の報道を振り返るとジョコ・ウィドド大統領が4月22日に行った記者会見で明らかにした、とある。その後の混乱は事前にパーム油業界関係者、貿易業界などへの事前の協議や根回しが行われなかったことが一因と内外のマスコミは報じている。
まさか閣内でも事前説明がなかったとは思いたくないが、混乱の責任を貿易相一人に負わせるのは過酷な仕打ちではないだろうか。無責任、責任転嫁がいくらインドネシアの得意技だとしてもあまりにも無体である。
そこでふと「更迭の背景には別の理由があるのでは」と思い至ったところ「ルトフィ貿易相は食用油に絡む汚職事件に関与したのではないかとの疑惑が浮上していた」との報道を見つけた。この汚職関与疑惑がおそらく更迭の主な原因だろう。
そしてその後任となったズルキフル氏はPAN党首であり、ジョコ・ウィドド大統領は「長期に渡る実績と現場経験」が問題解決に役立つと期待を示し、ズルキフル貿易相も「食用油の安定供給と価格に関する問題の迅速解決」を喫緊の課題としてあげた。
同氏の内閣入りは2024年の総選挙での連立与党の一角としての連携への期待も滲み出る。これで与党は7政党となり、議席の82%を占める圧倒的多数となった。残る野党である民主党と福祉正義党はズルキフル貿易相に対して「30日以内に一定の成果を出さなければ内閣への信用度が落ちることになる」と今後の展開次第ではジョコ・ウィドド大統領の責任論が浮上してくると圧力をかけている。
パーム油禁輸の混乱の責任といいながら極めて政治的な内閣改造だったようである。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。