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ジョグジャカルタ州知事のスルタン 女子生徒ヒジャブ強要問題で大岡裁き

ジョグジャカルタ州バンタール県バングンタバン地区にある公立高校で教師が10年生の女子生徒(高校1年に相当)に対して、イスラム教徒の女性が着用する「ヒジャブ(ジルバッブ)」の着用を強制するという事案が起きたというニュースが流れた。

女子生徒はイスラム教徒だったと報じられているが、本人の宗教に関わらず「ヒジャブ」の着用を強制されることはイスラム学校ではない公立学校では御法度である。

公立学校には宗教、種族、文化などの違いがある生徒が一堂に集うことで「他人を尊敬する」「異なる宗教や人を理解する」などを学ぶことができる。

これはインドネシアが国是とする「多様性の中の統一」「寛容性」を涵養することにも通じ、極めて重要なことである。

この女子生徒は校長と3人の教師から「ヒジャブ」の着用を強いられた結果、鬱になり自宅に閉じこもり不登校になってしまったという。地元のジョグジャカルタ州教育スポーツ庁は事態打開として転校を勧め、女子生徒は転校した。

この事態に怒り心頭なのが同州知事であるハメンクボウォノ10世だった。同知事は「公立高校でその生徒の宗教に関わらずジルバッブ着用を強いるとはもってのほか、校長と3教師は追って沙汰あるまで教壇に立つな」。「転校しろというのも問題外である」として校長と3教師を一時停職処分にしたのだった。

ハメンクボウォノ10世はジョグジャカルタのスルタン(王)であると同時に世襲制の同州知事も務める人格高潔、市民目線での施政は高い人気と支持を得ている。

その「大岡裁き」のような胸の空くような言動は「インドネシアの水戸黄門」のようである。褒め上げすぎかもしれないが、かつて王宮でインタビューしたときは厳かな雰囲気の中、流暢な英語を駆使して冗談交じりで質問に的確に応えてくれるなどその人柄が滲み出ていた。英語にも所作にも気品が溢れていたことが印象に残っている。

「ヒジャブ」着用強制などイスラム教徒による「傲慢な横暴」ともいえるような事案にイスラム側の反発を危惧してかジョコ・ウィドド大統領は沈黙するか、言うだけで行動しないケースが多いが、ハメンクボウォノ10世による今回のような素早く的確な行動に学ぶべきことがあるような気がする。ハメンクボウォノ10世は 個人的には最も尊敬するインドネシア人の一人である。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。