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いまも止まらぬシドアルジョの泥火山 17年経て泥流からレアアース発見か

東ジャワ州シドアルジョ県で噴出し続ける泥流に苦悩している政府だったが、最近になってその悩みが杞憂に終わるかもしれない可能性が出てきた。泥の中に希土類(レアアース)が含まれているかもしれないことがわかったからだ。エネルギー鉱物資源省(ESDM)の地質庁は、シドアルジョの泥火山から噴出する泥にレアアースが含まれている可能性があることを明らかにした。レアアースとはレアメタルの一種で、具体的にレアアースはテレビやデジカメ、携帯電話、パソコン、ハイブリッドまたは電気自動車など、日常生活に必要不可欠なハイテク製品に使われている。将来的に安定供給の確保が重要とされている資源のひとつである。

だが、忘れてはいけないのが人災の被害者たちだ。シドアルジョ泥管理庁(BPLS)のデータによると、2016年のバースト量は1日あたり30,000~50,000立方メートルに達したと発表があった。泥の噴出により、Tanggulangin、Jabon、Poong地区の19の村、10,426戸の住宅と77軒の礼拝堂が泥流に飲み込まれた。被災地は1,143.3ヘクタールに達し、多数の人々が避難を余儀なくされた。「ラピンド社」が泥流当初から原因は地震だと主張したが、多くの地質学者は、掘削により高圧の層を刺激し、泥噴出が起きたと報告した。ジョコウィドド大統領は被害者の救済を指示し補償金が支払われた。しかし、「ラピンド社」は政府からの多額の貸し付けを受け、その返済が滞るなどのトラブルもあった。

以前ブロモ山への道中、シドアルジョの泥火山に立ち寄った。車を停めて小高い堤をあがると、一面が泥に覆われはるか遠くでガスが噴出しているのが見えた。その時同行していたインドネシア人は「泥の中には重金属が多く含まれ、泥は海に流出し健康被害も出ている」と言っていた。

泥火山の被害で不本意ながら知名度が上がったシドアルジョには興味深い歴史がある。シドアルジョには1042年〜1135年に建国されたジェンガラ王国が存在した。ジェンガラ王国はアイルランガ王によって分割されたカフリパン王国のひとつであり(もうひとつはパンジャル王国)、ヒンズー教と仏教の王国だった。そんな歴史ある土地で、元来そこに居住していた者の被害や心の傷もそっちのけで、レアアースの産出可能性を手放しで喜ぶのはどうかと思う。結局その利権は政府が手にするだろう。レアアースの取引価格は、安定的に上昇を続けている。レアアース取引で得た利益は、全てその土地にいた市民の生活が元通りになるまで還元する。それぐらいの気概を持った政治家の出現を期待したい。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。