「インドネシアのファッション」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?伝統のバティックやテヌン、それとも今勢いを増している若手デザイナーたちでしょうか。JF3ファッションフェスティバルでは、その両方がひとつのステージで出会います。伝統を守りながら、未来へと再構築していく――JF3はまさにそんな場です。
JF3とは?
このフェスティバルは、2004年から続くSummareconの取り組みとして生まれました。単なる年に一度のお祭りではなく、文化遺産を受け継ぎ、若手を育て、さらに世界とつなぐエコシステムとして進化を続けています。
初開催から20年以上を経た今、JF3はインドネシア最大級で、最も影響力のあるファッションフェスティバルのひとつに成長しました。ショーケースにとどまらず、伝統・次世代・国際的なコラボレーションを結びつける“ファッションの生態系”そのものになっているのです。
そして2025年、第21回を迎えるJF3のテーマは「Recrafted: A New Vision」。ファッションを未来へとつなぐための新たな挑戦が始まります。
2つのステージから世界へ。JF3が描く新しいビジョン
JF3 2025は、7月24日〜27日にスマレコン・モール・クラパガディン、そして7月30日〜8月2日にスマレコン・モール・セルポンの二会場で開催されました。約2週間にわたる祭典のステージには、インドネシアをはじめ、フランス、ASEAN諸国、韓国から計45人のデザイナーが集結。伝統と未来をつなぐ架け橋となるような、革新的でエネルギッシュなコレクションが次々と披露されました。
さらに、今年のJF3が示した大きな一歩として注目されたのが、7月26日に行われた釜山ファッションウィークとの覚書の締結です。このパートナーシップは、インドネシアブランドが韓国市場で存在感を高める新たなチャンスを切り開くだけでなく、両国の間でさまざまなプログラム交流を実現する可能性を広げています。国際的な広がりを見せるJF3の姿勢を象徴する出来事といえるでしょう。


ファッションの未来を形づくるプログラム

JF3 2025は、ただのランウェイイベントではありませんでした。そこに広がっていたのは、生きた「ファッション・エコシステム」。華やかなショーの裏側では、50以上のローカルブランドを集めたリテールショーケース「Niwasana by Fashion Village」が展開され、来場者を魅了しました。さらに、会場にはストリートの熱も響きました。パリ発のDRPとタッグを組んだ「CODE. STRT」は2回目の開催を迎え、7月30日から8月10日までの12日間にわたりストリートウェアとアーバンカルチャーを祝う場に。80以上のブランドが参加し、その中には日本の「Paja Studio」も登場しました。
次世代の育成も大きなテーマです。今年初めて設立された「Future Fashion Award」では、選ばれた2つの若手ブランドがLAKON Indonesiaとともに資金援助やビジネス面での指導を受けました。また、毎年才能を発掘してきた「JF3 Model Search」からは、世界の舞台を目指す新しいモデルたちが羽ばたいています。さらに「JF3 Talk」は、デザイナーや研究者、実務家をつなぐディスカッションの場として定着し、インドネシアのファッションの未来を戦略的に語る時間となっています。
こうした取り組みすべてが示しているのは、JF3が「単なるフェス」ではないということです。ここは、創造とビジネス、そしてアイデアが交差する実験の場。インドネシア・ファッションの未来を育てるラボラトリーとして、確かな存在感を放っているのです。
PINTU Incubator:ジャカルタから世界へ
JF3が掲げる「次世代育成」を体現するのが PINTU Incubator 。インドネシア初のファッションインキュベーションプログラムとして、JF3とLAKON Indonesia、そして在インドネシア・フランス大使館(IFI)の協力により2022年にスタートしました。
毎年行われる参加ブランドの選抜は競争率が高く、数千の応募の中からほんの一握りだけが選ばれます。選ばれたブランドは半年間にわたり、国際市場を想定した実践的トレーニングを受けることができます。Pintu Inocubatorでは「国際基準で通用する強く、一貫性を持った競争力のあるブランド」を育成することを目標としています。
これまでの3年間で、1万を超えるブランドからの応募があり、その中から51のブランドを本プログラムに迎え入れました。86名のメンターが指導に携わり、そのうち33名はフランスから招聘された専門家で、参加者に国際的な視点を提供しています。
6か月にわたるインキュベーションの成果は、すでに世界の舞台で示されています。選ばれたブランドは毎年 パリ・トレードショーに参加し、グローバルファッションの中心であるパリでコレクションを披露しています。2025年には、その活躍がさらに広がり、PINTUの卒業ブランド Senses、Apakabar、Fugukuが大阪・関西万博 に出展。JF3とともに、インドネシアの文化外交とビジネス展開をアジアの舞台で強く印象づけました。
さらに、PINTUは国際的にも高く評価されています。2025年5月、フランスのラシダ・ダティ文化大臣がジャカルタでのプレゼンテーションを視察し、エコール・デュプレ パリ との協定が締結されました。これにより学生交流やクリエイティブ活動のプラットフォーム確立の道が開かれました。また、ボロブドゥール寺院で行われた演説でフランス大統領エマニュエル・マクロンがPINTUについて言及し、「文化協力の成功例」として賞賛しました。
こうした国際的な認知により、PINTUは単なるインキュベータを超え、インドネシアの文化外交の象徴 となっています。

大阪万博2025に登場

JF3ファッションフェスティバル2025の開催からわずか2日後、その歩みは大阪・関西万博の国際舞台へと続きました。PINTUインキュベーターからは、Senses、Apakabar、Fugukuの3つの卒業ブランドが参加し、彼らの出展は6か月間のインキュベーションの成果を示す場となりました。これらのコレクションは、インドネシアの新しいファッション像を国際社会に示すものとなったのです。
一方、LAKON Indonesiaは「United Diversity Fashion Show – SOROYURU」で大きな注目を集めました。SOROYURUは日本語で「違いの中の調和」を意味し、このショーはJellyfish Pavilionの主催により、WASSE(Expo Exhibition Centre)で開催されました。LAKONは西ヌサ・トゥンガラ州の伝統織物にインスパイアされ、それを現代的に昇華させたコレクションを披露。9か国から集まったモデルたちが着用し、さらに香港のComfiknitとのコラボレーションによって持続可能なテキスタイルの要素も加えられました。
またランウェイだけにとどまらず、大阪・LUCUA梅田ではポップアップストアも展開し、日本の来場者がインドネシアのクラフツマンシップを直接体感できる機会を提供しました。PINTUインキュベーターとLAKON Indonesiaの活動は、JF3が若手の才能育成と文化外交を推進するエコシステムであることを改めて示したのです。ジャカルタから日本へ──JF3は単なるファッションフェスティバルにとどまらず、インドネシアのブランドがグローバル市場へ挑戦する原動力として、コラボレーション、持続可能性、そして国際的な関連性を体現しているのです。
JF3が描く次のステージ

JF3 2025が幕を閉じた今、ひとつだけ確かなことがあります。それは、このフェスティバルが単なるファッションショーではないということです。
ここは、アイデアが交わり、伝統に新しい息吹が吹き込まれ、若い世代が未来へ羽ばたくための舞台です。ジャカルタから大阪、パリ、そして釜山へと広がる歩みのなかで、JF3はインドネシアの革新と文化外交を世界に発信する存在として、確かな足跡を残してきました。JF3のチェアマンであるスギアント・ナガリア氏は、その歩みを振り返り、次のように語ります。
「JF3は、インドネシアのファッション産業やUMKM(中小零細事業者)を支援するという理念から始まりました。10年目を迎える頃には国際的なネットワークとつながり、そして直近の5年間は、文化保存とエコシステム支援にさらに力を注いできました。第3の10年期に入った今、JF3の方向性は『再生』です。若い才能が育ち、グローバル市場で力強く成長できる場をつくりたいと考えています。」ナガリア氏は、伝統と次世代の両輪を支え、国を超えたコラボレーションを進めることこそがJF3の強みだと強調します。こうした取り組みによって、JF3はインドネシアにとって、世界のファッション地図に確かな存在感を刻む重要なプラットフォームになっているのです。
Webサイト情報
JF3 Website | https://jf3.co.id/ |
LAKON Indonesia | https://lin.ee/bxiVpSa |
PINTU Incubaotr | https://gowell-indonesia.com/ |