バリ島には数多くの神秘的な寺院が点在するが、ブレレン地方に位置するプラ・バトゥール・ガンシアンは、その中でも「魔石の神話」で知られる特別な聖地である。単なる礼拝所にとどまらず、深い歴史と文化を今に伝える古刹である。
この寺院は、10世紀から11世紀にかけての古代バリ時代に建立されたとされる。山岳地帯に位置することから、高地に宿る神々への信仰の中心として機能してきた。境内では野生の猿たちが自由に歩き回り、独特の雰囲気を醸し出している。
最大の特徴は、地元住民から「魔石」と呼ばれる巨大な石群の存在にある。これらの石には神秘的な力が宿ると信じられ、時には大きさが変わったり、自然に場所を移動したりすると語り継がれてきた。科学的根拠は確認されていないが、自然と人々の信仰が深く結びついた象徴といえる。石は寺院の神聖な一部として、今もヒンドゥー教徒によって崇拝されている。
現在もプラ・バトゥール・ガンシアンは信仰の中心として機能しており、バリ暦に基づく祭礼「ピオダラン」が年に2回執り行われている。祭礼には周辺の農民たちが集い、豊作と村の安全を祈願する。
デンパサールから車で約3時間、ブスンビウ郡ティンガルサリ村に位置するこの寺院は、歴史と神話、そして自然が織りなすバリの精神世界を体感できる貴重な場所である。