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裏切り者の墓を踏みしめて イモギリに眠るマタラム王国の悲話

(c) travel.detik.com

ジョグジャカルタ近郊・イモギリの丘に広がるマタラム王家の墓所。その荘厳な石段を登る途中、一段だけ不自然にすり減った段がある。滑らかなその段の下には、かつて王に刃向かった裏切り者、トゥメングン・エンドラナタの亡骸が眠っている。

時は1629年。スルタン・アグンが率いるマタラム王国は、バタビア(現ジャカルタ)を支配していたオランダ東インド会社(VOC)への遠征を企てた。しかし作戦は失敗に終わる。原因は、マタラム軍の食糧庫の位置や戦略を敵に漏らした裏切り行為だった。情報を売ったのは、王の側近でありながらVOCに取り入っていたエンドラナタである。

裏切りの報いは苛烈だった。彼は捕らえられ、身体を三つに裂かれた。胴体は参道の石段の下に、頭部は墓地の門の内側に、足は池のそばに葬られたという。以後、その石段だけが意図的に他と異なる形で作られ、参拝者が無意識に踏みしめて通るよう設計された。

「裏切り者は永遠に人々に踏まれ続ける」、それがスルタン・アグンの命じた戒めである。400年を経た今も、イモギリの風の中には王国の誇りと、忠誠を裏切った者への冷たい記憶が静かに息づいている。参道を歩く一歩一歩が、マタラムの歴史を語り継ぐ儀式のようでもある。