インドネシアの食卓に欠かせない存在がサンバルである。唐辛子をベースにしたこの辛味調味料は、地域によって味も香りも異なる。バリ島の「サンバル・マタ」は、玉ねぎや唐辛子、レモングラス、ライムの葉をココナッツオイルとライム果汁で和えた爽やかな辛味が特徴であり、スンダ地方の「サンバル・ダダック」は作りたての香ばしさが食卓を引き立てる。
しかし、サンバルは単なる調味料ではない。人々の記憶や感情、さらには世代を超えた価値観を映す鏡でもある。International Flavors and Fragrances（IFF）の調査によると、ミレニアル世代とZ世代ではサンバルへの感じ方が異なるという。ミレニアル世代にとってサンバルは、家庭料理や幼少期の思い出と結びつく「日常のぬくもり」の象徴である。一方、Z世代にとっては、激辛料理に挑戦したりSNSで共有したりすることで、自分らしさを表す手段となっている。辛さを通じて人とつながる、新しい文化の形でもある。
近年、IFFは自社で開発したFlavorfitなどの技術を通じて、伝統的な味わいに革新をもたらしている。サンバルは今や、辛味という枠を超え、インドネシアの文化遺産と現代の感性を結ぶ存在として進化を続けているのである。
