インドネシア料理の定番として知られるナシクニン。その中でも、北スラウェシ州マナドの老舗「ナシクニン・サルマ・サロジャ」は、ひと味違う存在感を放っている。1977年の創業以来、現在は二代目のファジャル氏が母の味を受け継ぎ、伝統の味を守り続けている。黄金色に輝くご飯に多彩なトッピングが添えられた一皿は、見た目にも華やかで、マナドの人々に長く愛されてきた。
この店を特別なものにしているのが、他ではあまり見られないパタタの存在である。パタタとはサツマイモを黒糖で煮詰めた甘い副菜で、ナシクニン全体の味を引き立てる要のような存在である。一口食べれば、パタタの香ばしい甘さがセムール・ダギン(甘辛煮込み肉)などの旨味と重なり、ピリ辛のサンバル・メラと混ざり合って、口の中に複雑で奥深い味わいが広がる。
さらに、料理は「ダウン・ウォカ」と呼ばれる葉に包まれて提供される。これはスラウェシでは「ブスン」とも呼ばれ、香りを閉じ込めつつ長持ちさせる効果があるため、旅のお供や手土産にも最適である。ナシクニン・サルマ・サロジャは、単なる軽食ではなく、家族の絆と地域の知恵が生み出した文化そのものである。マナドを訪れたなら、この一皿が語る物語を、ぜひ味わってみてほしい。



















