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悠久の時を刻むタナ・トラジャの伝統家屋が語る宇宙観

(c) travel.detik.com

スラウェシ・スラタン州タナ・トラジャ県で、数百年の歴史をもつ伝統家屋「トンコナン・カプン」の取り壊しをめぐる出来事が、SNSで大きな話題となった。この騒動は、単なる建物の保存問題にとどまらず、トラジャ族独自の建築文化と精神世界に改めて光を当てるきっかけとなっている。

トンコナンとは、トラジャ族が受け継いできた長方形の高床式住居で、その名は「集う・話し合う」という意味を持つ。かつては、家族や一族が集まり、重要な決定を下す場でもあった。建物は「下界・中界・上界」という宇宙観を反映し、柱の部分、居住空間、屋根の三層構造で成り立っている。

特筆すべきは、その圧倒的な耐久性だ。ウル材と呼ばれる堅牢な木を使い、塗装を施さずとも何世代にもわたり風雨に耐えてきた。両端が反り上がった船形の屋根は、祖先の航海を象徴するとされ、集落の象徴的な景観をつくり出している。

正面に飾られた水牛の角は、葬儀で捧げられた証であり、その数は家系の社会的地位を物語る。さらに、トンコナンが北向きに建てられるのは、創造主プアン・マトゥアへの敬意の表れだ。壁面を彩る精緻な彫刻には、自然との共生や助け合いを重んじるトラジャ族の思想が刻まれている。

トンコナンは住居を超えた、トラジャ族の歴史と信仰を今に伝える生きた文化遺産なのである。