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憂鬱なクリスマスの時期を前に

インドネシアに限らないことだが、世の中は12月24日、25日に「クリスマス・イブ」と「クリスマス」を迎え、キリスト教徒にとっては聖夜と降誕祭という大事な宗教行事の日々となる。ところがインドネシアのキリスト教徒にとっては「諸人こぞりて、迎えまつる」という訳にはすんなりといかない事情がある。かつてはこのクリスマスの時期を狙って教会が襲撃されたり爆破されたり、さらに日曜日の恒例のミサが刃物男の乱入で妨害され負傷者がでたりと「受難」の過去があるからだ。

それはインドネシアの圧倒的多数を占めるイスラム教徒の一部急進派といわれる人々によるキリスト教徒への「嫌がらせ」である。最近はそうしたキリスト教徒への「直接的な行動」が影を潜めていたが、11月27日に中部スラウェシ州シギ県の山中でキリスト教徒4人が虐殺されるという事件が起きた。治安当局では同州などを活動拠点とするイスラム教テロ組織「東部インドネシアのムジャヒディン(MIT)」の犯行と断定して、治安部隊を増派して容疑者逮捕に全力を挙げている。

あくまでテロ組織による犯行だが①犠牲者4人は全員がプロテスタント②宗教行事に使われていた家屋が放火され焼失③2人が焼死体で2人が斬首死体で発見、などから「単なるテロ事件」以上の不安が高まり、多くのキリスト教徒に過去の多くの事件という「悪夢」を呼び起こさせる事態となっているのだ。

クリスマスの近い時期のキリスト教徒への凶行だけにジョコ・ウィドド大統領は「こうした野蛮な行為は明らかに国民の団結と調和を破壊しようとする挑発だ。国民は落ち着き、テロへの警戒を怠ることなく団結しよう」と国民に冷静な対応と団結、警戒を呼びかけた。

ジャカルタ市内では恒例のクリスマス商戦を前に商業施設やアパートでのクリスマスの飾りつけも始まっている。「多様性を認める寛容」でキリスト教徒が静かに迎えられるクリスマスとなることを祈りたい。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。