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ミャンマーで発生したクーデター インドネシアが静観できない理由

2月1日、衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。ミャンマー国軍がアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相、ウィン・ミン大統領、与党「国民民主連盟(NLD)」幹部らを拘束、テレビ局の通常放送を停止させ、軍司令官が全権を掌握して1年間の非常事態を宣言するというクーデターが発生したのだ。

NLDが圧勝し軍支持政党が議席大幅減となった2020年11月の総選挙で大規模な不正があったとして、軍が選挙のやり直しを主張するも拒否され、選挙結果に基づく新議会が招集されて、スー・チー政権2期目が始まる2月1日に実力行使に出たのだった。

欧米を筆頭に国際社会は「武力による政権奪取」を厳しく非難するとともに「スー・チーさんらの釈放」を軍に求めているが、軍は聞く耳をもたない状況だ。

ミャンマーも加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)は「政変は内政問題」と静観するカンボジアやタイ、フィリピンの一方でシンガポール、インドネシア、マレーシアは「重大な懸念」を示し温度差が生じている。

そんな中インドネシアを訪問したマレーシアのムヒディン首相と会談したジョコ・ウィドド大統領は2月5日に「域内の安全、安定への影響を危惧」との見方で一致し、両国外相に対し「ASEAN特別外相会議でミャンマー問題協議」を議長国ブルネイや加盟各国に働きかけるよう指示したという。

ASEANには「満場一致」と「内政不干渉」という原則があり「ミャンマー問題での外相会議開催」には障壁が立ちはだかるが、インドネシアにはなんとしてもミャンマー問題にコミットしなければならない理由がある。1967年のASEAN創設メンバーであるインドネシアは1995年のミャンマー加盟を強く支持し、ミャンマー軍政はかつてのスハルト長期独裁政権を統治の手本とし、民主化の過程もインドネシアから学んだ。ユドヨノ前大統領は軍政と良好な関係を維持し、スー・チーさんは自宅軟禁中からメガワティ元大統領と個人的に親しい、などの歴史的背景や個人的経緯が両国の間には実はあるのだ。

そしてミャンマーが直面する少数イスラム教徒「ロヒンギャ族」の問題は「イスラム同胞」の課題でもあり、座視できないのだ。このためインドネシアでは「ユドヨノ特使で調停へ」(地元紙)との主張も出ている。ASEAN流の解決策模索でインドネシアの指導力発揮、盟主復活への期待は高まっている。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。