インドネシアの人口の約88%を占めるイスラム教徒にとって、コロナ禍による影響でイスラム教徒の宗教行事5行の一つである「ハジ(大巡礼)」が難しくなっている。
イスラム教徒にとっては生涯に一度は行うべきとされるサウジアラビアの聖地メッカへの巡礼。富裕層は何度も巡礼しているが、一般のイスラム教徒にとっては積立金をして何年もその順番待ちの末、ようやくメッカに向かうことができ、巡礼の途上で命絶えることは「本望」ともされているという。
そのハジは全世界からイスラム教徒約200万人を迎えることから毎年サウジアラビアが各国に「ハジ参加者の割り当て」を決めて受け入れている。ところが2020年はコロナ感染防止の見地から例年の外国人巡礼を禁止し、サウジ国内の外国人、サウジ国民1000人に限って巡礼を認めた。
そして2021年、サウジでもインドネシアでもコロナ感染は依然として厳しい状況にあることもあり、6月3日にインドネシアのヤクット・チョリル・クーマス宗教相が「今年のハジはキャンセルする」と会見で明らかにした。2年連続のハジの中止はハジ希望者として登録している約500万人のイスラム教徒を失望させた。「今年のハジ参加予定者は2022年とし、積み立てた預金は希望すれば返金する」との方針を示したのだ。
ところが、在インドネシアのサウジ大使が6月4日に「サウジ政府はまだ各国のハジ巡礼者の割り当てを決めていない段階だ」としてシンガポールに続くインドネシアの「ハジ中止」に困惑をみせた。どうも背景にはサウジ政府の「巡礼者割り当て」が遅れる中、「今年も巡礼は厳しいだろう」とするインドネシア側が「インドネシア人のイスラム教徒の健康と安全を守るため」として主導権を発揮して先手を打ったのが真相のようだ。
インドネシアでハジを待つ一般のイスラム教徒の平均的な「待ち時間」は約22年待ちといわれている。生涯に一度の大切な行である「ハジ」を多くの人が約22年間も待っているということに驚く。
聖地メッカにあるザムザムの泉は聖水とされてハジ参加者は現地で飲み、親族への土産として持ち帰る。タナアバンなどでは土産物として聖水も販売している(本物か真偽は不明)。イスラム教徒にとっては生涯の願いのハジだけに、現地を自分の足で訪れたいことだろう。それだけに早期のハジ再開が待たれる。