6月8日、東ジャカルタにあるモスクにスハルト元大統領の一族が集まって静かな祈りの催事が行われた。1921年6月8日に生まれたスハルト氏の「生誕100年」を祝うイベントだった。式にはバンバン氏、シティさん、ティティクさんなどのスハルト氏の子供たちが参加、アニス・バスウェダン州知事などの招待客を迎えた。
地元メディアによるとティティックさんの前夫であるプラボウォ・スビアント国防相も参加していたという。
血縁ではないが女婿であるプラボウォ氏は2024年の次期大統領選の最有力候補の1人とされ、最近はあまり目立たないようにしているようで、ニュースになることも少ない。だが大統領選に向けて着々と準備しているとみられ、依然としてつながりがあるスハルト一族からの支持も得ているのは確実だ。
インドネシアの歴代大統領をみてみると、ほぼ全ての大統領の子供が政界に進出し、その一部は大統領の座を目指している。
初代スカルノ大統領は長女メガワティさんが第5代大統領に就任し、そのメガワティさんの長女プアンさんは現国会議長であり、メガワティさん率いる与党「闘争民主党」の幹部で次期党首、そして次期大統領選の有力候補の1人と目されている。
スハルト大統領を継いだハビビ大統領だけが例外で、息子2人は政治的野心とは無縁という。ワヒド大統領の長女イェニーさんは元シドニー・モーニング・ヘラルド紙の記者で筆者とは旧知の仲。国民覚醒党で政治活動をしていたが、党内抗争の結果離党して新たな活動を模索しているという。
ユドヨノ第6代大統領は自ら率いてきた政党「民主党」党首を長男のアグス氏に譲ったものの、同じく党内政争に巻き込まれ党首の地位が現在も揺らいでいる。
そしてジョコ・ウィドド大統領だが、長男ギブラン氏が父親も務めた中部ジャワのソロ市長に当選して政治家としてのキャリアをスタートさせている。
このように歴代大統領はハビビ氏を除いて全ての息子、娘、女婿が政治の道へ進み、それぞれに父母が設立した政党の党員や幹部、党首になり、いずれも次期、あるいは次次期の大統領選に名乗りを上げる可能性が極めて高いとみられている。
これはどうみても「世襲」にほかならず、日本でも岸、佐藤、竹下、小泉歴代首相の子息などが「世襲議員」として活躍していることもあり、「政治家の世襲」はよほど美味しい「家業の継続」なのだろう。
東南アジアでもフィリピンのアキノ政権やシンガポールのリー政権などは世襲といえるだろうし、北朝鮮も例外ではない。
政治の世襲には「一部の一族への権力、権益、利益の集中」という悪弊がつきもので、批判も大きい。その一方、血族重視で既得権益の継続を望む取り巻き、関係する富裕層も多く存在し、結果として「世襲」が続く土壌を排除できない構造となっている。
インドネシアの次期大統領候補は正副候補のペアを展望してみれば、世襲候補の組み合わせが多いことに驚く。そうした状況下でPDIP党員のガンジャル・プラノウォ中部ジャワ州知事や既存政党とは一歩離れているリドワン・カミル西ジャワ州知事などを「反世襲の台風の目」として支持する国民も多い。「世襲」は次期大統領選のキーワードである。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。