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今そこにある危機のコロナ感染拡大 政治の後手、無為無策はもはや人災

インドネシアのコロナ感染が危機的な状況に陥っている。6月29日現在の感染者数は200万人を超え、感染死者数は5万6000人以上となり、その数値は日々増加の一途をたどっている。6月24日には一日の感染者数が2万574人に達し、その時点で過去最多数を記録した。ジャカルタでは同日、7505人の新規感染者数を記録している。

知人が送ってきた映像にブカシの某病院の実態が映し出されていた。病院の前庭に横たわる人、トラックの荷台に寝たままの人、車椅子や椅子に座ったままの人。誰もが酸素吸入を受けており、コロナ感染者とみられる。完全防護服姿の病院関係者がPCR検査をしようとする姿。たぶん医療現場は混乱の極にあり、医療の崩壊が既に現場レベルでは各地で発生しているだろうと思わせる映像だった。

気になるのは既にワクチンを接種したインドネシアの医療関係者350人以上がコロナに感染し、数十人が入院して治療を受けているという事実である。このうち医師10人が感染死したとの情報もある、ワクチン接種を済ませたのに、である。

医療関係者の多くは優先的にワクチン接種を受けたため、ほぼ全員が中国のシノバック・バイオテック社製を接種したという。

米ニューヨーク・タイムズ紙は6月22日、「中国製ワクチンに頼った国は今、感染拡大と闘っている」とその有効性に疑問を投げかける記事を掲載した。どうも以前から懸念されていた中国製ワクチンの「効果」に疑問が生じる事態が、ワクチン接種者のコロナ感染拡大で浮き彫りとなったといえる。

ファイザー社、モデルナ社のワクチンの有効性が約90%とされる中、中国製シノファーム社製は78%、シノバック社製に至っては51%という。中国のワクチン無償提供に飛びついたインドネシア政府は中国製ワクチンの安全性、有効性独自に検証したはずだが、今となってはその信用性も揺らいでいるといえるだろう。

 ジョコ・ウィドド大統領が各地でワクチン接種の状況を視察しているニュースが頻繁に流れるが、感染拡大で新たな事態を迎えているにも関わらず「ロックダウン(都市封鎖)」には経済界への配慮なのか消極的。ジャカルタのアニス州知事も「週末は自宅にいるように」と市民に呼びかけるだけ。もはやインドネシアの現状は政治の無策による「人災」といえるかもしれない状況だろう。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。