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電気自動車で中国・五菱に秋波 閣僚が工場見学“日本を牽制”

 インドネシア政府は電気自動車の導入に向けて中国の企業に大きな期待を寄せていることを表明した。なぜ中国なのかという疑問に対し、閣僚からは「日本はハイブリッド車を優先して電気自動車のインドネシア導入には積極的ではなかったからだ」という“恨み節”も聞こえてくる電気自動車を巡るインドネシアの思惑に、この国が抱える「宿痾」を再び垣間見る思いがした。

 ルフット・パンジャイタン調整相(海事・投資)は9月30日、ブディ・カルヤ・スマディ運輸相、ブディ・グナワン・サディキン保健相を伴い西ジャワ州チカランにある中国「五菱(ウーリン)自動車」の組立生産工場を訪問し、関係者の大歓迎を受けた。
 工場幹部の中国人との会談でルフット調整相は「インドネシアでの電気自動車の生産、販売に対する中国の計画を聞いた」としたうえで「可能なら2022年末までに販売開始に漕ぎつけたい。販売が早ければ国民の電気自動車への乗り換えも速やかに進むことになる」と述べたという。その返す刀で冒頭のような発言で日本を牽制したのだった。「ハイブリッドではなく電気自動車を主張したため私は親中国だといわれたが、日本こそ技術植民主義だ」と息巻いて五菱の電気自動車に試乗してご満悦だったという。

 日本を袖にして中国に受注させたジャカルタ・バンドン間の高速鉄道計画のその後、現状をみてインドネシアは過去から、中国から何を学んだのかと首を捻りたくなる。
 スハルト大統領時代の1996年に「インドネシア国民車計画」というのがあり、当時トヨタなど日本車が市場を席捲する中、大統領の息子トミー・スハルト氏が関係して韓国の自動車会社「起亜」から技術協力を受けて製造する「ティモール車」を廉価で提供し、マレーシアが成功していた国民車「プロトン」のインドネシア版を狙ったものだった。

 大統領絡みの事業だけに大々的な宣伝と売り込みは大きくマスコミなどで取り上げられたが、大金を支払う消費者は、多少高額でも故障が少なく燃費がいい日本車の敵ではなく、失策となった。結局アジア通貨危機、スハルト政権崩壊などで「ティモール」の夢はわずか2500台販売で藻屑と消えた。
 頻繁に起きる停電、大雨による洪水や道路の冠水、長時間の充電、充電スタンドの整備拡大そして高額な車体価格。「2022年末の販売開始は夢物語」だろう。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。