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パプア地方に新たに3州創設 政治的意図に現地では反対運動

インドネシア国会は4月6日、全党一致でパプア地方に新たに3州を創設する法案を可決した。パプア地方にはすでにパプア州(州都ジャヤプラ)と西パプア州(州都マノクワリ)があるが、法案によるとこれに新たに南パプア州(州都メラウケ)、中部パプア州(州都ティミカ)、中部山岳パプア州(州都ワメナ)が創設される。この結果パプア地方は5州となり、インドネシア全土では37州となることとが確定した。

現地のパプア地方ではこの3州創設法案に反対するデモや集会が起きており、現地への事前説明などもほとんどない突然の決定に不満が高まっている。

インドネシア政府側にしてみれば、州が細分化されることで細かい行政サービスができるとしているが、分割化で住民の管理が強化され、軍の増強が懸念されると反対派は訴えている。

というのはパプア地方では独立武装闘争を続ける「自由パプア運動(OPM)」が活動中で、特に中部山岳地帯ではOPNの分派とされる「西パプア民族解放軍(TPNPB)」が活発に活動し、軍の拠点や車列ヘの攻撃を続けている。2021年4月には国家情報局(BIN)の現地司令官イ・グスティ・プトゥ・ダニー陸軍准将が武装組織の待ち伏せ攻撃で死亡している。

この他にもTPNPBは同胞であるパプア人をも「軍や警察に抵抗運動の情報を提供していたスパイである」として殺害するなど、住民に対し武装抵抗運動への協力を強制しているという。

南部ティミカには世界有数とされる銅鉱山があり、米資本の企業がインドネシアと協力して銅の採掘、精製、海外への輸出を行っている。かつてはOPMが「資源の搾取だ」として鉱山会社の労働者らを襲撃する事件もあり、国軍が兵士を派遣して警備を強化した結果、現在では事件はほぼなくなった。

 

パプアはこれまでアチェ、東ティモールと並ぶ独立武装抵抗運動地域として大きな治安上の問題であった。しかしアチェが特別州の地位を獲得し、東ティモールは念願の独立を果たし、パプアの独立運動が唯一残された治安課題となっている。

政府にとっては天然資源保護という重要な経済問題があり、さらに治安問題の解決という政治課題があるパプアの状況打開が重要課題であることが3州新設には表れている。

だが政府の思惑が現地住民の思いとはかけ離れていることは間違いなく、政府と合意した「特別自治法」にも反しているといい、解決への道のりは依然遠いといえるだろう。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。