世界中のトップニュースとなる事件がインドネシア東ジャワ州マランで起きた。すでに多くの報道が出ているので事件の詳細は省くが、サッカーの試合後に敗戦という結果に憤ったファン約3000人がスタンドからピッチに雪崩れ込み、警戒中の警察部隊と衝突した。
この時点では死傷者もなく、有効な鎮圧、統制方法があったはずだが、警察側は強力な催涙弾をピッチ内のみならず観衆が残るスタンドにまで打ち込み、混乱に拍車をかけた。
催涙ガスで失神や目、喉の被害を訴える観客が増え、挙句はピッチのガスを逃れようと群衆が狭い出口に殺到した結果、将棋倒しとなり圧死者が多数出た。125人が死亡、323人が負傷したという。犠牲者の中に警察官2人と子供32人が含まれていたという。
この事件どうみてもきっかけはピッチに雪崩れ込んだファンだが、騒ぎや犠牲を大きくしたのは国際サッカー連盟(FIFA)が禁止している混乱対策で催涙弾を使用した警察にあるのは誰もがわかることだが、警察の責任を声高に叫ぶ国内マスコミは限られている。
そんな中マフード政治法務治安担当調整相が10月3日に「ファン殺到を生んだ責任ある人物を特定し処分するよう」に捜査当局に命じた。「罪を犯した加害者を数日中に特定するよう求める」とした。
この調整相の発言、本末転倒ではないだろうか。事件の被害者はファンであり、多くの死者が出る結果となったのは警察の催涙弾発射であり、加害者は警察でもあるのだ。
時々ピントが狂う発言が閣僚から出るのは日本、米国でも同じだが、事件の加害者と被害者をあたかも理解していない今回の発言は見苦しい。「警察や軍兵士に過失がある訳ない」という前提でいることがそもそもの誤認であるといえる。
交通違反検挙では公然と賄賂を要求し、閣僚は警察ではなくピッチに乱入した「責任ある人物」を加害者に仕立てようとしているかのようだ。
だが今回はFIFAをはじめとする国際社会が事件の真相解明と警察の責任について厳しい監視の目を注いでおり、これまで通りの「なあなあ的」結論は許されない。
今後行われる「FIFA・U-20ワールドカップ」のインドネシア開催を、警備上の理由やファンの行動などから疑問視する声も出ており、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は正念場を迎えている。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。