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アニス・バスウェダンという人物 高評価の中に埋没する醜聞

ジャカルタ特別州のアニス・バスウェダン州知事がナスデム党のスリヤ・パロ党首らに担がれて2024年の大統領選に大統領候補として出馬する意向を明らかにした。

アニス州知事に関しては東京の日本財団で講演するなど内外の評価は高く、大統領候補として有力視されている。

その経歴も独立の英雄を祖父に米メリーランド大学で修士課程を終え、米北イリノイ大学で博士課程修了というアカデミズムの道を歩み、ジャカルタの私立パラマディーナ大学学長、シンクタンク代表など日の当たる道を歩んできていた。

そうした経歴に目を付けたジョコ・ウィドド大統領が2014年にアニス氏を教育文化相に登用したことで本格的な政治の世界に入ったのだった。

しかし2016年に内閣改造で閣僚から去ったが、その理由は明確にはなっていないものの当時アニス大臣に汚職の疑惑があったといわれている。これは当時の教育文化省高官から直接聞いた話しだが、アニス大臣は汚職疑惑の噂がでた段階で汚名を着せられる前に職を辞したのではないか、というのが省内の一致した見方だったという。

このアニス氏に関わる大臣時代の汚職疑惑はインドネシア国内でもその後ほとんど報道されることもなく、今では清廉潔白、誠実な政治家であるとの評価が定まっている。

しかしこのままでは2024年の大統領選はスハルト長期独裁政権下で軍幹部として人権侵害事件に関与したプラボウォ・スビアント国防相と汚職体質を隠したかにみえるアニス州知事との対決の構図になりそうであり、インドネシアの「人権侵害と汚職という旧態然の体質」を引きずった、あるいはその可能性のある候補者同士ということになる。少なくとも当時を知る教育文化省関係者はそうみて「苦虫」をかみ潰しているというのだ。

こうなると人権侵害や汚職の噂すらないとされるガンジャル・プラノウォ中部ジャワ州知事が現時点では理想的な大統領候補となるだろう。ただガンジャル州知事が所属する最大与党「闘争民主党(PDIP)」のメガワティ・スカルノプトリ元大統領は実娘のプアン・マハラニ国会議長の大統領候補への擁立に拘っているとされる。人気も人望もないプアン議長を早々に断念してPDIP内外で人気が高いガンジャル州知事の擁立に舵を切れるかが大統領選の当面の最大の焦点となる。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。