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咳止めシロップで急性腎臓疾患 子供ら133人死亡 品質検査に問題

インドネシアで咳止めや解熱のためのシロップ薬を飲んで急性腎臓疾患になる人が8月頃から増え、調査したところ複数の薬品に問題がある成分が含まれていることが明らかになり、販売禁止措置が取られた。

しかしそれまでに急性の腎臓病で透析を受けるなどの治療も空しく死者が拡大し、10月22日にブディ・グナディ・サディキン保健相はこれまでに少なくとも133人が死亡したと発表、シロップ薬が主に子供向けであったことから死者には5歳以下の幼児や子供が多数含まれているという。

インドネシアの国家食品医薬品局(BPOM)は医薬品検査で問題があったと指摘されて「過失」で告発を受ける事態になっている。

事態を重く見た政府は慌てて腎臓疾患の治療薬の提供を呼びかけ、シンガポールとオーストラリアからの援助で治療薬を緊急輸入して医療機関に配布したという。

インスタント麵の大手が製造販売する製品に危険な違法成分が含まれているとシンガポールの食品衛生当局が同製品のシンガポール国内での販売を禁止したというニュースがついこの間報道されたばかりである。

インドネシアの食品ばかりか薬品の安全性についても疑問が投げかけられるようになった今回の事態をジョコ・ウィドド大統領はどう受け止めているのだろうか。

多くの子供を含む133人の命が失われたことは東ジャワ州マランのサッカー場で起きた死者131人の中に32人の子供が含まれていたことと合わせて、インドネシアで子供の命が日常の生活の中で失われることへの忿怒と義憤を覚える。

大好きなサッカーの試合を観戦していただけで、咳や発熱を抑えるために薬局で求めた市販薬を飲んだだけで失われる命に深く思いを致し「二度と同じような不幸を防ぐ」ことこそ為政者の責務ではないだろうか。

ドストエフスキーの次の問いかけの言葉を思い出す。「たった一人の子供といえども、その子の苦しみを代償にして社会全体の幸せを得ていいのだろうか」
 電気自動車、首都移転、高速鉄道、G20首脳会議、大統領選とジョコ・ウィドド政権が直面する主要政治課題のどれ一つとして国民のそして将来社会を担う子供たちの「命を守る」課題はないようにみえる。

シロップ薬製造会社、安全検査する検査機関、そして複数のシロップが無認可で流通していた薬品裏ルートなどの責任は実に重い。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。