11月15、16日にバリ島で開催されていた主要20カ国・地域首脳会議(G20首脳会議)は、難しいといわれた首脳宣言もなんとか採択され無事終了した。ところがその会議終了時にジョコ・ウィドド大統領がまたしてもとんでもないことを言い出したのだった。2036年の夏季五輪を喜んで開催する用意があると発言したのだ。これはつまりインドネシアでの五輪開催の意志があり、候補地として立候補することへの前段となる。
2036年の五輪にはすでにエジプトとメキシコが立候補し五輪招致を表明している。そこにインドネシアが「参戦」することになる。
驚きはそれに止まらない。インドネシアでの五輪は東カリマンタン島のジャングルに建設が始まっている新首都「ヌサンタラ」での開催を考えているというのだ。
このジョコ・ウィドド大統領の発言が内閣や国会、関係省庁への事前の根回しもない単なる思い付きのリップサービスならまだしも、そうでないとするなら「関係者」にとっては「驚天動地」の発言だっただろう。
そうでなくても財政面で厳しい新首都建設のグランドデザインに、これからメインスタジアム、各種競技施設、選手役員用の宿舎、観戦者用のホテルなどの関連施設建設計画を組み込まなくてはならないのだ。
2021年にジョコ・ウィドド大統領と会談して首都移転計画への賛同と投資の方針を明らかにしたソフトバンクの孫正義会長だったが2022年に約200億ドルから400億ドルともいわれた融資取りやめを詳細な説明なしに発表し、財政難は深刻となりインドネシア政府としてさらに中国に支援を頼むことになった。
この首都移転に絡む資金難でさらなる中国資金が流入すれば「中国の新首都」そして「中国の五輪」と揶揄されかねない状況にもなるだろう。そんな外野の評判や揶揄を気にすることなくジョコ・ウィドド大統領は計画を邁進させることだろう。しかし中国の「一帯一路」政策にはスリランカが今直面して国内経済が悪化していることによる「債務の罠」という陥穽がありることも忘れてはならない。
独立100周年の2045年の新首都完工と2036年の五輪招致が本格的に動き出せばと東カリマンタンの原生林開墾の現場では突貫工事ラッシュが予想されることになる。
そうなると隣接するクタイ国立公園などに生息する絶滅危惧種であるオランウータンにとってははなはだ迷惑な話であり、自然との共生という政府のお題目はどこへいくのか。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。