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新首都ヌサンタラへの日本の関心 投資誘致のインドネシアへ誤シグナル

インドネシア政府がというよりジョコ・ウィドド大統領と一部閣僚が懸命に取り組み東カリマンタンの熱帯雨林地帯に建設を予定している新首都「ヌサンタラ」計画は、財務当局の深刻な懸念を顧みることなく続いている。

このため政府は海外からの新規の投資誘致に必死に取り組んでいる。頼みの綱は中国だが、ソフトバンク孫正義氏による約200から400億ドルといわれた融資計画中断にも関わらず日本への期待は相変わらず大きい。

最近インドネシアを日本の2つの経済ミッションが訪問、関係機関から「ヌサンタラ」への新規投資誘致を持ち掛けられた。まず国際協力銀行(JBIC)などインフラ整備関係の日系企業12社の関係者がバスキ公共事業・国民住宅相らと会談し、新首都のインフラ整備への参入を打診された。続いて日本インドネシア協会会長の福田康夫元首相が訪問、ジョコ・ウィドド大統領らと会談した。福田元首相には日本の大手企業15社の約40人が同行、ビジネスチャンスを探るとともにジョコ・ウィドド大統領から「ヌサンタラ」のインフラ整備に日本の協力が必要だと「秋波」が送られた。

こうしたインドネシア側に対し訪問団関係者は「首都移転は日本にとっても非常に関心の高いことだ」と応じたと報じられた。もしこれが事実とすれば日本は誤ったシグナルを送ったことにならないだろうか。

正直いって日本国内で首都移転計画も「ヌサンタラ」も一部の関係者、企業以外には全く知られておらず「非常に関心高い」ことは決してない。インドネシア側の過度の期待を招くことにならなければいいがと懸念する。

一方の福田元首相はジョコ・ウィドド大統領らに「日本が協力できるところは協力したい」と述べたという。さすがは政治家である相手に協力するとの言質を与えることなく「協力できるところは」と条件を付けた。これは永田町用語で「協力できないところは協力しない」「あまり協力できることはないだろう」と解釈されることが多い。「前向きに検討」「スピード感をもって」などと同様のほとんど事態を伴わない言い回しである。

先のビジネス関係者の発言が政治家の口からであればリップサービス的な外交辞令と日イ双方は理解して落ち着くだろうことは想像に難くない。言葉は言霊が宿る重いもので意味深いが、政治家のそれが例外であることは国会の質疑応答や辞任や謝罪に追い込まれた際の弁明をみれば明々白々だろう。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。