ジョコ・ウィドド大統領や一部閣僚が財務当局の不安を無視して強力に押し進めている首都移転に関して、またもや不可思議な言説が飛び交っている。
12月15日にバフリル投資調整相が国会で、首都移転計画に当初投資を計画しその後撤退を表明した孫正義氏のソフトバンクに関連して「ソフトバンクが自己を利するだけの投資であった」と説明したのだった。
曰くインドネシア政府が求めているのは「投資する側だけではなく、投資を受ける側も利する公正なモデルだ」とのたまわった。
耳を疑う論理にインドネシアの狡賢い本音を見た思いがする。いくら期待していたソフトバンク、換言すれば日本からの投資が裏切られたからといって、後出しじゃんけんのような言い草は非常識を通り越して醜悪だ。
投資は投資すること自体が投資を受ける国を「利する」ことであり、それ以外に何を期待しているというのか。
まさかかつてのスハルト大統領の妻ディエン夫人を「マダム10%」と称したような「袖の下」を指しているのではないだろうかと疑いたくなる。
ソフトバンクは投資撤退の理由を明らかにしていないが、ひょとしたらこうしたインドネシア側の思惑に「正体見たり」と「投資を受ける側を利して投資する側を利さない実態」を見透かして撤退を決めたのかも知れない。
インドネシアとのビジネスはスハルト時代ほどの「KKN(腐敗、癒着、縁故主義)」はないものの、姿形を変えてその残滓がいまだに幅を効かせていることは在留日本人なら身に覚えがあるだろうと思う。
その残滓というよりKKNそのもののようにも聞こえるバフリル氏の言い分である。それも得意の「公正」という言葉で自己の主張を正当化させてもいるのだ。
同氏は国会で「現在アラブ首長国連邦や中国、欧州諸国、台湾、韓国などが首都移転計画への投資を名乗り出ている」と説明したという。それならそれでいいではないか、わざわざソフトバンクに「恨み節」を言う必要性がどこにあるというのだろうか。
おそらくこうした体質は今後の日本のインドネシアへの大型投資を躊躇させる結果になるかもしれない。そういう「計算」ができないところもいかにもインドネシアといえるのではないか。ジョコ・ウィドド大統領は孫正義氏に投資撤退の真意を聞いてみればいいのではないか。「逃した魚は大きい」である。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。