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女性児童相が児童婚・早婚対策へ 母体と胎児が危険、退学も深刻

グスティ・アユ・ビンタン・ダルマワティ女性児童相が、児童婚・早婚問題を解決するために調整会議を設けると1月18日に明らかにした。インドネシアでは2019年の婚姻法改正で婚姻は19歳以上の男女の合意が原則で19歳以下の場合は宗教裁判所の許可が必要と規定された。それ以前は男性が19歳以上、女性は16歳以上で結婚が可能だった。

しかしインドネシアでは長年16歳以下の少女による結婚が黙認されてきた経緯がある。その理由の一つは国民の大多数を占めるイスラム教信仰に基づくもので、一夫多妻を認め第一夫人の同意などの一定条件下で第四夫人までの妻帯が許されている。

このため過去には中部ジャワ・スマランの43歳の実業家が12歳の少女を第二夫人に迎えたが、この時はニュースになり当局が児童保護法違反で摘発、実業家は禁固4年と罰金刑が科された。この事件はあくまで氷山の一角で児童婚や早婚の例は枚挙に暇がない。

背景には地方の貧困問題がある。貧しい農家などは働き手にならない女子を少しでもいい環境で暮らさせたいとの親の意向で裕福な男性に嫁がせる「口減らし」の側面がある。

こうした宗教的規範の他に「アダット」と呼ばれる「慣習法」の存在がある。有名なのがバリ島の東にあるロンボク島に住むササック族のアダットである。ニュースとして大きく報道されたのは、日没後にデートしていた、一緒にいたというだけで結婚させられた15歳の少年と12歳の少女の例だ。ササック族の間では日没後に一緒にいるのは既婚者などに限られ、違反した場合は強制的に結婚させられるという厳しいものだ。

インドネシアではこのように法律、宗教規範、慣習法という3重の枠組みが複雑に絡み合い、その結果児童婚・早婚が横行し社会問題として度々取り上げられるが根本的な問題解決にはつながってこなかった。

驚くべき数字がある。2010年の統計ではインドネシア国内の児童婚は13,5%に及び、10歳から14歳の少女の妊娠率は7,4%、15歳から19歳の少女では15,8%の妊娠率となるのだ。

婚姻法は一応一夫一妻制を促進しているが、イスラム教の規範や慣習法が優先されるのがインドネシアの実態なのである。

児童婚・早婚には特に少女側の中学・高校の中途退学による学力、母体・胎児の健康、離婚後の生活困難などの問題が付随するだけに政府の取り組みは喫緊の課題である。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。