5/14-15 チカラン・ジャカルタで交流会開催!詳細はこちら

させていただいている、との意識 若い世代への倉沢愛子さんの思い

インドネシア研究の泰斗の一人、倉沢愛子さんが中央公論社のインタビューで語ったことはインドネシアに関わる者として思いを新たにし、常に心掛けるべき示唆に富んだ内容なので長文だが以下に引用する。

――最後に、アジアの地域研究を志す若者にメッセージやアドバイスをお願いします。

倉沢――偉そうな言い方に聞こえるかもしれませんが、日本人はアジアと対峙するとき、とかく相手を「発展途上国」と位置づけて、何とかこれらの国々の発展に役立ちたい、という「上から目線」で見てしまうことがしばしばあるように思います。「役に立ちたい」という気持ちの何が悪いのか、と思われるかもしれませんが、その発想の裏には、(先進国の)自分は何か役に立てる、という優越感が潜んでいるように思います。特に、正義感にあふれた若い世代は要注意です。経済的に恵まれた国の人間だからといって、それだけで何かができるようになるわけではないということをまず自覚して、他国へ接近する必要があります。

それからもうひとつ、「役に立つ」という自負と関連していることなのですが、相手国へ行って調査をするときは、「科学の真理の追究のために必要なことをしている」という意識ではなく、「させていただいている」という意識を持っていてください。こういっては元も子もないですが、我々の調査研究なんて、突き詰めていけば結局は知的好奇心やエゴ、業績のためであることが多く、その国にとっては迷惑なことかもしれないのです。そういう自覚が欠落しないよう、常に気をつけていなくてはいけない。これは後期高齢者と呼ばれる齢になって、私自身ようやく「悟った」教訓です。自戒の念を込めて、若い世代に申し送りしたいと思います。――

インドネシアのみならず日本人が外国に居住したり仕事をしたりする場合、特にそれが欧米などではなく東南アジアなどでは往々にして抱きがちなのがこの「優越感」である。

自覚していなくても無意識のうちに言葉や行動の端々に現れるこの「優越感」がどれだけ相手を傷つけ、気まずい思いあるいは怒りにさせるか。今一度立ち止まって熟考、自省する必要があるのではないだろうか。自戒を込めて倉沢さんの思いを読み返しながら、インドネシアそしてインドネシア人としっかりと向き合っていきたい。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。