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全仏テニス女子ダブルス日本人選手失格 インドネシア人選手の優しさに敬意

『我々選手一同は、スポーツマンシップにのっとり、戦い抜くことを誓います』甲子園での選手宣誓や、全国各地域のスポーツ大会などで誰もが一度は耳にしたことのある言葉だろう。しかし、スポーツマンシップとは具体的に何を意味するのか。広辞苑には『正々堂々と公明に勝負を行う、スポーツマンにふさわしい態度』とある。具体的に例を挙げると、相手選手に敬意をはらう、審判を尊重する、試合のルールを守る、などである。

先日、テニスの全仏オープン女子ダブルスの試合で加藤未唯とアルディラ・スーチャディ(インドネシア)組に対する裁定について話題になった。

ボールガールにボールが当たったことは事実であり、それに対し審判が何かしらのアクションを起こすのは一般的な流れだ。しかし、これほど大きな騒動になっているのは、一度下された判定の“警告”が、相手選手からの猛抗議で覆り、“失格”となった上、加藤選手は2回戦までのポイントと獲得賞金が没収となったからで、相手選手の猛抗議の内容やその後の態度も含めて、多くのスポーツマンをはじめ、各国から批判の的となっている。失格の処分を受け、相棒のスーチャディ選手がコート上で泣いている加藤選手を優しく抱きしめて慰めていたのが印象的だった。

加藤選手は、数日後のミックスダブルスで見事優勝を果たした。納得のいかないまま失格にされてから、すぐに切り替える強靭なメンタルに感服した。決勝のセンターコートに響いた加藤選手へのエールは、目の肥えた全仏のファンもまた、不可解な判定に異を唱えているようだった。

また、自身は全く関係ないまま失格という憂き目に遭ったスーチャディ選手が「決勝がんばって!」と加藤選手にメッセージを送った姿勢にも素晴らしい人間性が垣間見れた。失格が決まった瞬間ほくそ笑んだ相手ペアとは雲泥の差だ。

インドネシア国内でも、スーチャディ選手のふるまいに対して称賛する声が圧倒的で、相手ペアについて批判する声はあっても、自国選手を失格にしてしまった加藤選手に対する批判は一切聞かれない。

スポーツマンシップの中には、観客としてすべてのチームのプレーを称賛しよう、ともある。不可解な失格処分で様々な思いがある中、スポーツマンシップを貫き、エールを送ったスーチャディ選手に敬意を払いたい。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。