インドネシアの高速鉄道「Whoosh(ウーシュ)」が10月2日開業した。起点となる東ジャカルタのハリム駅からバンドン市にあるテガルアール駅までのおよそ143㎞を結ぶ東南アジア初の高速鉄道となる。これにより従来3時間弱かかっていたジャカルタ-バンドン間が45分程度で結ばれた。途中駅として後から追加されたパダララン駅はバンドン中心部から北西の郊外に位置し、ハリム駅からおよそ30分で到着する。
さてこの高速鉄道計画、受注したのは中国だ。そこに至るまでの経緯はご存知の方も多いだろう。もともと日本はインドネシアに対し、新幹線の輸出を提案していた。当時の大統領であったスシロ・バンバン・ユドヨノ元大統領が退任し、2014年に親中派とされている現職のジョコ・ウィドド大統領が当選してから趨勢が変化する。14年10月に就任すると、わずか2カ月後の15年1月に高速鉄道計画の中止を発表した。その直後中国が受注競争への参加を表明。それでも9月上旬にジョコウィ大統領は改めて高速鉄道計画の代替案として低速鉄道に計画を変更すると発表している。
しかし同月下旬には中国側の新提案を受け入れる形で中国案での高速鉄道計画が正式に決まったのだ。一国の未来を担う大型プロジェクトの決定プロセスとしては、あまりにもお粗末だと言わざるを得ない。
日本が緻密に調査したデータを流用し、日本よりも「早く」「安く」完成させられると豪語した上、インドネシアに財政負担を求めないというインドネシア政府を喜ばす形で受注を勝ち取った中国。19年開業としていたが土地収用やコロナ禍で4年遅れ、55億米ドルと試算した建設費も73億米ドル(約1兆1000億円)と30%以上増加した。
もともとインドネシア第二の都市であるスラバヤまでの計画の第一段階として始まったバンドン高速鉄道計画。今後の延伸について、中国は参加に難色を示している。日本の調査データを流用した今回と異なり、今後の未知の土地のデータ調査・建設に自信がないのだろうとの推察は正鵠を射ているはずだ。
大統領選という政治的要素も絡んで、インドネシアは今後再度日本へ泣きついてくるだろう。「NOといえない日本人」ではなく、自国の技術に誇りを持ち、尊敬してくれる国と密接な関係を築く。優しさに付けこむ強さに屈するのではなく、手を貸すべき相手を間違えず屈しない強国になってほしいものだと日本人として切実に思う。