世界最多のイスラム教徒人口を擁するインドネシアが、世界有数のSNSユーザー数を誇る話は小欄で何度も取り上げてきたが、人気動画投稿アプリ「TikTok」も例外ではない。
2023年7月時点でユーザー数は約9,980万人とトップのアメリカ(1億2千万人)に次ぐ2位となっている。インドネシアの人口が約2億7千万人なので、約3人に1人が使っている計算になる。さすが多子若齢化国家である。
そんなTikTokで今年1つの投稿が大きな話題を呼んだ。今風に言えば「バズった」その投稿は、200万以上のフォロワーを有する人気配信者の女性が、イスラム教の祈りを捧げた後に豚肉を食した動画である。
イスラム教では豚肉を含む豚由来の食品が禁じられている。それを承知の上で、配信者の女性は豚肉を口にする動画を投稿した。この女性に対して、先月インドネシアの裁判所が下した判決は禁固2年と2億5千万ルピア(約240万円)の罰金であった。判決理由は神への冒涜(ぼうとく)とされ、「イスラム信仰の個人や特定の団体へ憎悪を引き起こすことを目的に情報を拡散した」と付け加えられた。
さて、ここで一つ考えたいのが判決理由に「情報を拡散したから」とあることだ。確かに禁じられているとはいえ、豚肉を食べたイスラム教徒が即時逮捕とはならない。同様にアルコールも禁じられているのだが、街中にはビールを飲む人も多く見受けられる。もちろんそれらの人にイスラム教徒か確認したわけではないが、イスラム教徒の友人知人はビールや日本酒をがぶがぶ飲む。
そして、おいしそうな豚料理を目の前にすると「何も言うな。私は何も知らない」と言いながら、豚肉を口に運ぶ猛者までいる。彼らは口をそろえてこう言う。「知らなければいいのだ」と。実はコーランにも「やむを得ず、また意図せずこの法を犯した者には、神の慈悲が注がれる」と明記されている。世界最大のイスラム教徒数を誇っているが、実際の信仰心は融通無碍であり、寛大であり、中東ほど厳格ではない一面もある。
だからこそ、彼女も軽い気持ちで動画を投稿したのだろう。SNSでの収益で生計を立てているのであれば、少しでもみんなが再生するコンテンツをと考えるのはおかしくはない。
日本でも多くの迷惑行為などで逮捕までされているケースもある。しかし、犯罪行為と今回のケースを同列に考えるのはいささか乱暴だと個人的には思ってしまう。それでも彼女は2年間の禁固刑に服するのだ。彼女もSNS全盛期の被害者と言えるのかもしれない。