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インドネシアに自生のアタ ルーツは戦いの儀礼に使用する盾

地球上にシダ植物は約1万種が自生しているといわれている。シダ植物は私たち人間が古くから生活に利用してきた植物のひとつである。

インドネシアにはシダ植物である「アタ」が自生している。バリ島東部カランアッサム県、アグン山を望む山間村落にあるトゥガナン村ではアタのツルを使用した伝統工芸品が有名だ。アタのツルだけを使用し、手作業でバッグ、小物入れ、ランチョンマットなどを成形しながら編んでいく。その後、天日干しや燻すことで製品として完成する。アタ製品は丈夫で軽く、人気のバリ雑貨のひとつだ。

そんなアタ製品で有名なトゥガナン村には「ウサバ・サンバ」という祭事がある。その祭事の中にある「ムカレカレ」という儀礼には多くの観光客が訪れる。「ムカレカレ」では、男性がパンダンドゥリ(とげのあるパンダンの葉)を束にした剣とアタで作った盾を持ち、男性同士1対1で戦う。アタで作った盾(約直径68.0cm)は軽く頑丈なため、盾になるほどの強度を持つ。アタ製品といえばバッグや小物入れがなじみではあるが、アタ製品のルーツが戦いの儀礼の盾であったことはあまり知られていない。

現在、日本の大手デパートやショッピングモールにあるアジアン雑貨店ではアタ製品の丸型ランチョンマットが2,000円〜2,500円で販売されている。同様の製品がジャカルタのモール内にあるお土産屋では、日本円にして約3,000円だった。アタ製品は編み方の細かさによって値段が変化するため一概には言えないが、日本よりも高い価格がついていた。ジャカルタではお土産屋以外でほとんど見かけないアタ製品だが、バリ島ではお店やホテルなどで目にする機会が多くある。

しかし加工前の状態、いわば植物として自生しているアタを目にする機会はまれである。バリ島にあるアタ製品を製作、販売するお店の中には植物のアタをお店の前で栽培し観察できるところも存在する。そこでは、スタッフから栽培しているアタについての説明を聞いたり、製品になるまでの全工程を見学したりできる。

シダの植物が生活に関係していることで世界に目を向けてみると、タイでは約200年歴史を持つ王室御用達のヤーンリパオ(シダ科のツル使用)のバッグが存在する。ハワイのカウアイ島にあるシダの洞窟は、ハワイ王族がかつて結婚式などを行った聖地である。日本には国産のシダで作るシダ箒がある。近年の地球温暖化から地球沸騰化へ目まぐるしく進みゆく現代では温故知新で、シダ植物も含めた自然と共生していく必要がある。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。