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歴史が紡ぐ、ジョグジャカルタ王宮「消えた宰相」の物語

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ジョグジャカルタ王宮(Keraton Yogyakarta)には、現在「Patih(宰相)」という重要な役職が存在しないのをご存じだろうか。現在の王、Sri Sultan Hamengku Buwono Xは、ジョグジャカルタ特別地域(DIY)の知事も兼任している。その背景には、王権・植民地支配・戦時下の自治、そして独立後の地方行政再編が折り重なる制度史がある。

ジョグジャ王宮はマタラムの統治様式を継ぎ、パティはケパティハンを拠点に“首相”として機能していた。オランダ期にはスルタン就任前の政治契約に基づき、王宮と植民地政府をつなぐ要職でもあった。転機は1942年、日本軍政が「監督付き自治」を認め、HB9が自前の官僚機構を整備したこと。これによりパティの役割は事実上不要となり、存任のパティは1944年に退任、以後は後継を置かなかった。

1945年の独立後、カスルタンとパクアラマンはNKRIへ合流しDIY州が成立。行政機能は旧パティ拠点のケパティハンに集約され、州機関が実務を担う体制へ移行した。結果、「王はいるが宰相はいない」という現在の姿が定着したのである。王宮とケパティハンを巡り、権力の移ろいを現地で味わってみては。