東ジャワ州マドゥラ島にある「Air Mata Ibu(母の涙)」は、チャクラニングラット王朝にゆかりの人物を祀る墓所であり、そこには夫への深い献身と祈りを捧げた一人の女性の物語が刻まれている。
この地に眠るのは、チャクラニングラット1世の妃として知られるRatu Ibuである。彼女はワリ・ソンゴの一人、スナン・ギリの子孫にあたり、夫と子の繁栄を願って祈りを重ねた。ある時、子孫が七代にわたりマドゥラを治めるよう祈ったが、夫はそれを不満として叱責した。Ratu Ibuは深く悲しみ、自らを責めながら涙を流し続け、やがてその涙の中で生涯を終えたと伝えられている。その涙は今も枯れぬ泉となり、聖なる水として病を癒やし、恵みをもたらすと信じられている。
墓所は17世紀に築かれ、標高20メートルの丘に位置する。参拝者は46段の石段を登り、五つの区画に分かれた供養所を巡ることができる。Ratu Ibuの墓のほか、歴代のチャクラニングラットなどの墓も並び、今ではマドゥラを代表する宗教観光地の一つとなっている。
参拝は24時間自由で入場料も不要だが、訪れる者は清潔を守り、言葉や態度に敬意を示すことが求められる。マドゥラの「母の涙」は、伝説と歴史が交わる場所として、訪れる人々に深い精神的体験を与えるのである。