バリ南部のデンパサールに位置するスランガン島は、島民の多くが漁業に従事する静かな漁村である。この島周辺で獲れるマグロやスマカツオ、ハタなどの豊富な海産物を活かした食文化の中でも、訪れる者を魅了してやまない名物料理が伝統的な燻製魚「イカン・アサップ」である。
一見すると普通の焼き魚のようだが、その真価は独特な調理法にある。ヤシの繊維「サブッ・クラパ」を燃やした煙と熱でじっくり燻し焼きにし、15〜30分ほどの工程で魚を反転させながら、ニンニクやワケギ、ウコン(ターメリック)をすり潰した特製調味料を丁寧に塗り重ねていく。これにより、外側は香ばしく引き締まり、身はしっとり柔らかくジューシーに仕上がるのだ。
黄金色に焼き上がった魚には、赤ワケギや大粒の唐辛子「チャベ・ベオ」、レモングラス、ペティス(魚介発酵調味料)などを合わせた爽やかな生サンバル「サンバル・マタ」が添えられる。スモーキーな魚の旨み、ハーブと辛みが弾けるサンバル、そして温かいご飯の組み合わせはまさに絶品だ。漁師の島が誇る素朴で誠実な一皿は、一度味わえば忘れられない深い余韻を残すのである。
もうひとネタ!
ウミガメ保護で有名なスランガン島は、ヤシの余剰素材を燻煙に活かす持続可能な知恵が息づく。香ばしい燻製魚と鮮烈なサンバル・マタのハーモニーは、リゾートとは一味違うディープな魅力だ。















