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野党民主党党首を巡る駆け引き 次期大統領選にらんだ権謀術数か

コロナ感染防止対策とワクチン接種が現在のインドネシア政治経済社会の中で最大の課題となっているが、その一方で見過ごすことのできない政治を巡る動きも進行している。

野党「民主党」のアグス・ハリムルティ・ユドヨノ党首が2月1日、「党指導部を覆そうとする動きがあるとの情報を得た」と指摘して「クーデター」という表現で「不穏な動きの存在」を公にしたのだ。

アグス党首は「不穏な動きの張本人」の具体的な名指しは避けたものの、この「張本人」に関して「大統領側近の高官」とし、ジョコ・ウィドドの右腕とされるムルドコ大統領首席補佐官の名前が浮上する事態になった。

これに対しムルドコ氏は即座に反応して「クーデターによる権力奪取というならそれは民主党内での動きであり、党と無関係の私が関与することなどありえない」と関与を全面否定した。その上で「感情のままに行動するのではなく、もっとタフな政治家になれと言いたい」と42歳の若い党首に対し元国軍司令官は”アドバイス”する余裕もみせた。

アグス党首はスシロ・バンバン・ユドヨノ(SBY)前大統領の長男で2020年3月に党首に就任。2019年の大統領選では再選を目指すジョコ・ウィドド大統領の対抗馬、プラボウォ・スビヤント氏を支持していた。プラボウォ氏が国防相として内閣入りし、プラボウォ氏が率いる「グリンドラ党」が与党化する中でも「民主党」は野党に止まり、ジョコ・ウィドド政権とは一線を画し続けていた。

こうした中で突如噴出した今回の「民主党指導部」を巡る騒動、背景に政治的なキナ臭さも漂っている。ジョコ・ウィドド大統領の後ろ盾となっている与党「闘争民主党(PDIP)」のメガワティ党首(元大統領)とSBYは犬猿の仲であることは有名で、当然のことながら大統領とSBYの関係も与党VS野党以上によくないとされている。

野党だったグリンドラ党が与党になり、プラボウォ氏の副大統領候補として大統領選を戦ったサンディアガ・ウノ氏も気が付けば観光創造経済相として内閣に名を連ねるなど、「かつての政敵の取り込み」が進んでいる。いずれも2024年の次期大統領選を視野に入れた合従連衡とみられている。

アグス党首は「次の次」の大統領を狙う有力候補者とされる。策士ムルドコ氏が密かに動いたのか単なる情報戦なのか、権謀術数渦巻く中でアグス氏の力量が試されている。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。