現在大統領として2期目を務めているジョコ・ウィドド大統領は3月15日にインターネットを通じて大統領としての任期に関して「3期目をめざすことはない」との姿勢を改めて明らかにした。憲法の規定では「大統領は2期目まで」と明文化されており、3期目をもし目指すのであれば「憲法改正」が前提となる。そうした憲法改正をしてまで大統領職にさらに挑戦するなどということは「全く考えていない」ということである。
コメントの中で「私はこれまでに何度も自分のスタンスを明らかにしており、それは変わっていない」として憲法改正や3選出馬の考えが全くないことを重ねて強調した。それだけになぜジョコ・ウィドド大統領はわざわざこうしたコメントを明らかにしなければならなかったのか、むしろその動機の方に興味が沸く。
この大統領のコメントは野党関係者がインターネットを通じて「憲法を改正して大統領が3期目を狙っている」と指摘したことに端を発している。あまり根拠のない指摘だといえるが、その野党関係者というのが「あのアミン・ライス氏」であるのだ。
スハルト政権崩壊、民主化の時代にイスラム団体「ムハマディア」を背景に学生や都市部知識人の支持を集め、ワヒド元大統領やメガワティ元大統領と並ぶ「民主化の寵児」としてもてはやされたアミン・ライス氏。自ら「国民信託党(PAN」)を結成して政治活動を続けるも次第に影響力は低下、PANを追われるような形で去り新党「ウマット党」を立ち上げるも「もはや過去の人」という政界の位置づけで報道される機会も激減していた。
ではそんなアミン・ライス氏の「曲玉」になぜジョコ・ウィドド大統領は反応しなければならなかったのか。
国民協議会の3分の1の発議で過半数の同意があれば憲法の条文改正は可能と憲法にはあり、現在の国民協議会の勢力図からすれば憲法改正は「試みれば可能」である。だが、ジョコ・ウィドド大統領周辺にはアミン・ライス氏の発言に野党「民主党」の重鎮ユドヨノ前大統領らがどう同調、加勢するかが気になったのではないだろうか。
「民主党」は大統領側近の策士ムルドコ氏を「反主流派によるクーデター」により新党首に選出。ユドヨノ氏らが無効を訴えるという内紛状態にあり、野党側の動きを最低限に封じ込めたい、との意向が働いたとみられている。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。