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マカッサルで自爆テロ 独善の連鎖と捜査の違和感

3月28日の日曜日午前、南スラウェシ州の州都マカッサル市内にあるミサが行われていたカトリック教会前で爆発があり、2人が死亡し約20人が負傷する事件が起きた。

バイクで乗りつけた2人組が教会敷地内への侵入を警備員に阻止された直後の爆発で、自爆テロだった。

国家警察は直ちに捜査を開始、翌29日には死亡した自爆テロ犯2人の身元を6カ月前に結婚したばかりの男女と特定した。現場の状況から遺体のDNAなどによる身元特定作業だったという割には意外なほど早期に身元が判明。2人が所属するというテロ組織も「ジャマー・アンシャルット・ダウラ(JAD)」とわかり、29日には全国で自爆テロに関連してJADのメンバー13人が一斉に逮捕された。

JADはフィリピン南部、さらに東ジャワ州スラバヤなどのキリスト教会で自爆テロを繰り返した組織である。特に2018年5月のスラバヤでの自爆テロでは息子2人、娘2人と両親という一家6人による3ヵ所の教会での自爆テロという「家族もろともの自爆テロ」という前例を見ない犯行だった。

自爆した子供は9歳から18歳までと若く、どこまで自らの意思で自爆したのか、親の「独善」の犠牲の可能性も否定できない。JADの自爆テロはこのように子供や夫婦、親族によるケースが多く、いくらイスラム教の教義に従った行為だと自分たちが主張しても子供や妻といった「巻添え」の連鎖には同じイスラム教徒からも疑問の声がでているという。

また警察の捜査にも違和感が残る。自爆テロの翌日には同じマカッサル市内、ジャカルタ首都圏、遠く離れた西ヌサトゥンガラ州ビマなどで13人も一気に逮捕したということは、JADのメンバーとして事前にマークしていた結果だろうと思われる。マカッサルでの逮捕者には実行犯とともに計画を練ったとされる人物が含まれ、ジャカルタでの逮捕者からはすぐに使用可能な爆弾も押収されたという。

そこまでの即座に着手できるほどの情報がありながら、どうして事前に摘発して、自爆テロを未然に防ぐことができなかったのだろうか、というのは外野席が抱く率直な違和感である。幸いに今回は警備員の機転が功を奏して自爆テロ犯以外に死者はいなかった。とはいえ幸運に甘えず子供や家族の巻添えの連鎖を絶ち、自爆テロを未然に防ぐために取るべき手段はまだまだあるのではないだろうか。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。