5/14-15 チカラン・ジャカルタで交流会開催!詳細はこちら

高速鉄道の建設中の支柱が倒壊 原因は設計か技術か、安全はどこに

SNSに衝撃的な動画がアップされた。ジャカルタからバンドンまでの高速鉄道計画で、現在建設中の高架を支える支柱の一つが倒壊する様子が映っているのだ。

重機が周囲で作業する中、支柱の1つが倒壊して砂煙を上げる様子は音声ナシだが臨場感たっぷりだ。幸いに死傷者はなかったようだが、これで2022年末の完工時期、さらにバリ島での国際会議に招待する習近平国家主席とジョコ・ウィドド大統領による同年10月の「特別試乗会」への影響も必至だろう。

邦字メディアでは日本経済新聞がこの事故を報じているが、事故は5日に西ジャワ州カラワンの工区で発生。すでに建設した支柱の位置が変化したため解体する工事を実施中、支柱を重機が持ち上げようとしたところ崩壊したという。

日本の土木技術は世界有数で、特に鉄道や道路、橋梁、トンネルの建設に関しては世界一といってもいい水準とされる。

今回の事故の場合、まず一度完成した支柱の「位置が変化」したことも通常は考えられず、その支柱を解体する際に倒壊することもあり得ないことである、普通は。映像を子細に観察すると、支柱は解体作業の為か下方が鉛筆の先のように削られており、倒壊させる一連の手順通りの作業中とも思える。

しかし日経の記事では「政府は深刻な事故として事業会社に再発防止を求めている」「解体工事の請負業者が決まった手順を守らなかったのが原因とみて調査」などとあるので、やはり過失に基づく「深刻な事故」だったのだろう。

杞憂かも知れないが、こんな事態が起きるとこれまで建設し、上部に線路を設置した全ての支柱に変化は生じていないのか、今一度精査する必要があるのではないかと思えてくる。なんせ支柱の上を乗客が乗せた鉄道が高速で走行するのだから。

支柱の「倒壊」の原因は解体業者のミスだろうが、「位置が変化」は中国の基本設計ミスなのかインドネシアの建設業者の手違いなのか。事業主体のインドネシア中国高速鉄道社(KCIC)は事故を受けて「作業員や建機を増やすなどの対応で22年末の完工は可能」と強気の構えを崩していないという。

中国による計画の甘さから工期は再三延期され、経費も膨大化してついに政府が国費を投入する羽目になっているこの高速鉄道計画、最も優先されるべき「安全」が置き去りにされていないだろうか。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。